海の杜(No.28、2026年9月1日)
地球上の様々な物質は、地球深部から高層大気に至る間で、様々な形態をとりながら移動しています。全球的な物質の移動を「物質循環(material cycle)」と呼びます。物質として水に着目したのが「水循環(water cycle or hydrological cycle)」です。
地球「表層」の水循環を概観しましょう。まず、水の総量は1386×(10の6乗)立方キロメートルと見積もられています(参考文献-1)。以下、(10の6乗)立方キロメートルを単位として表現します。海には1338存在します。総量の96.5%です。以下、主な貯留区分では、大陸上の氷河として24(1.7%)、地下水として23(1.7%)、湖沼水として0.176(0.013%)、土壌に0.0165(0.0012%)、大気中に0.0129(0.0009%)、植物や動物などの生物に0.00112(0.0001%)、それぞれ存在していると見積もられています。なお、これらの数値は文献によって多少差異がありますので注意が必要です。
上記に海や湖沼、大気などと、貯留区分を示しましたが、それらの間で水の交換があります。例えば、海からは大気へと水が蒸発し、一方、大気から海へは降水があります。また、河川から海へと水が流れ込みます。定常状態(時間的に変動がない場合)では、それぞれの貯留区分から出る水の量と、入る水の量は等しくなります。
貯留量をある時間内における交換量で割ることで、水の平均的な滞留時間(residence time)を求めることができます。水が入れ替わるおおよその時間です。たとえば、海の水の滞留時間は約2500年であり、大気の水の滞留時間は約8日間となります(参考文献-1)。大気中の水は、とても素早く入れ替わっているのです。
地球温暖化に伴い、水循環の様相も変化していることが分かってきました。AIMECに参加しているJAMSTECの細田滋毅さんらの、アルゴフロートによる塩分データを用いた研究によると、海のもともと蒸発が盛んな場所でさらに蒸発が強まり、降水が盛んなところで降水がさらに強まっていることが分かったのです(参考文献-2)。すなわち、温暖化は地球表層の水循環を強化していることを示しています。
本稿では主に水循環について説明しましたが、温暖化が炭素循環(carbon cycle)や窒素循環(nitrogen cycle)に与える影響についても盛んに研究が行われています。この中では、例えば光合成活動による炭素固定のように、生物の役割も大きいと考えられています。このような観点から、物質循環のことを「生物地球化学的循環(biogeochemical cycle)」と呼ぶこともあります。物質循環の解明はAIMECの重要な研究対象の一つです。
【参考文献】
1.沖大幹・鼎信次郎、2007:地球表層の水循環・水収支と世界の淡水資源の現状および今世紀の展望。地学雑誌、116(1)、31—42。
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F8767263&contentNo=1
2.Hosoda, S., T. Suga, N. Shikama and K. Mizuno, 2009: Global surface layer salinity change detected by Argo and its implication for hydrological cycle intensification. J. Oceanogr., 65, 579-586.
https://link.springer.com/article/10.1007/s10872-009-0049-1