海の杜(No.9、2025年2月1日)
AIMECの2つ目の研究テーマは、「環境変化に対する生態系の応答・適応・進化のメカニズム」の解明です。ここでは、2つのアプローチ(サブテーマ1・2)を採用し、その上に立って「生態系管理技術の開発」(サブテーマ3)にまで足を踏み入れます。
植物や動物の基本単位は「個体」ですが、複数集まり「個体群」を作り、そして多数種の個体群が相互に作用し植物や動物の「群集」を作ります。これらの全体が生態系です。したがって、非生物的な環境の変化に対する生態系の「応答・適応・進化」を考えるとき、個体レベル、個体群レベル、そして群集レベルでの「応答・適応・進化」が問題となります。また、対象とする生物種は多種多様ですので、アプローチには工夫を要します。
物理・化学的(非生物学的)データと生物学的データを多数収集し、これらビッグデータにAI技術を活用することで両者の関係性(生態系の関係応答性)を見出すアプローチを行います。本AIMECでは、非生物学的データの収集ではArgoフロートによる水温や塩分、生物地球化学要素の海洋モニタリングと、生態系のモニタリングでは環境DNA(eDNA)による生物多様性のモニタリングに、それぞれ注力します。
すべて生物種やすべての海域に対して同等にアプローチすることはパワーを超えていますので、特定の生物種や海域を選択の上、集中的に解明を図ります。海域としては人間活動が大きく影響する沿岸域と、長年定点観測が行われてきたハワイ近傍海域です。
人類は食料の一部を魚介類や海藻などの海洋生態系に依存してきました。しかしながら、ある種の資源量が激減するなど、持続的な利用であったのか疑問が生ずるところです。そこで、本AIMECの研究では、海洋生態系をより詳細に詳しく理解することに加え、人間活動と生態系の相互依存関係を解明することも含めました。このサブテーマは、「惑星スチュワードシップ」への貢献、すなわち、地球の持続可能な管理と保護のための責任ある行動規範・原則の確立に大いに資するテーマとなっています。
次回と次々回は、サブテーマ1)のArgoフロートによる物理・生物地球化学環境のモニタリングと、eDNAによる生物多様性に関するモニタリングを紹介します。