海洋瑣談(No.19、2025年12月15日)
先月(2025年11月)の20日、OceanOPSから「Global Ocean Observing System Status Report 2025(2025年GOOS現状報告書)」が公表された(参考URL-1)。この中に、表題にあるような「10,000 Ships for the Ocean initiative(海洋のための篤志観測船1万隻構想)」が、今年6月にフランス・ニースで開催された国連海洋会議(UN Ocean Conference: UNOC)で承認されたことを知った。
「Global Ocean Observing System: GOOS(グースと発音): 全球海洋観測システム」とは、全世界の海洋の現況や変動を監視し、その予測を可能にするための長期的で系統的な海洋観測システムを構築する国際計画であり、1991年以来、ユネスコ(UNESCO)傘下の政府間海洋学委員会(IOC)と世界気象機関(WMO)が共同で推進している。
また、本報告書をまとめたOceanOPSは正式名称「WMO-IOC Joint Centre for Oceanographic and Marine Meteorology in situ Observations Programmes Support(海洋学-海洋気象学現場観測計画支援のためのWMO-IOC共同センター)」のことで、フランス・ブレストにあるフランス国立海洋開発研究所(IFREMER:イーフレメールと発音)の中に置かれている。
今回の報告書はその名の通り、全球海洋観測システムの2025年の現状を報告したものである。観測・監視の手法ごとに、目標とする体制にどの程度充足しているのかを評価した結果が示されている。例えば、アルゴフロートによる観測・監視体制はワンアルゴ(OneArgo)の目標からすれば2025年度は“55%程度の充足度”である、という具合である。総論として観測・監視体制は未だ不十分で、世界の海洋を十分には網羅していないこと、漂流ブイ(海面を漂流しながら海水温などを計測しているブイ)や船舶からの観測報告数が近年減少傾向にあることなどを報告している。
さて、外洋を航行する民間船舶で、海洋の観測や監視(そのほとんどが海上気象観測)をしている船舶をvoluntary observing ship(VOS(ボスまたはブイオーエスと発音):篤志(とくし)観測船)と呼ぶ。金銭の授受がないボランティアで観測・監視業務を行い、データを気象庁のような各国の気象機関に報告する民間船舶のことである。
この報告書によると、気温や気圧、湿度、風向・風速などの海上気象に関する観測通報が、2024年は1年間に450万点が篤志観測船からなされたという。1日あたり1万2千点強の観測量である。これら観測に従事している船舶の数は、上述のように現在減少傾向にあるのだそうだ。このような背景の下に、今年の国連海洋会議で「10,000 Ships for the Ocean initiative(海洋のための篤志観測船1万隻構想)」が承認された。
この構想の目標は、2035年までに海上気象観測装置を装備した篤志観測船を1万隻に増加させることである。そのため、海運会社や船主など海運業界に対して、強い働きかけを行うという。実際、この働きかけは既に行われており、IOCの今年7月10日付のウェブサイト記事では、承認後1か月で約500隻の船舶が新規に登録されたという(参考URL-2)。
人工衛星や漂流ブイによる観測が存在するとはいえ、これらの篤志観測船による海上気象観測は、天気図を作る上でも、数値モデルによる予報の初期値として用いる上でも極めて重要で必要不可欠なものである。
これらの篤志観測船からの海上気象データの存在は、NHKラジオ第2放送で午後4時から20分間放送される「気象通報」で知ることができる。日本各地、アジア各地の気象データが紹介された後、「次に船舶からの報告をお知らせします」とアナウンスがあり、船舶海上気象データが報じられる。船舶データでは地点名はなく、海域と緯度・経度、風向と風力階級、天気、気圧のみが紹介される。なお、気温のデータは紹介されない。
この気象通報により現況の天気図を書くことができる。天気図より、各地の天気の状態が分かり、天候の推移の予想に役立てることができる。気象庁や民間気象会社から随時天気予報が公表されているのだが、船舶乗組員や山岳で仕事をする人たち、あるいは山登りを趣味とする人たちは、今でもこの気象通報を聞き天気図を描いて自ら予想しているのではなかろうか。
ところで、NHKがラジオ第2放送を来年2026年3月31日で廃止することを先月(11月)28日に総務省が正式に認可した(例えば、参考URL-3)。第2放送の廃止後、気象通報がどのような扱いになるのかは、まだNHKから公式な発表がない。第1放送に移すなり、FM放送に移すなりして、ぜひ残してほしいものである。気象通報に対する「コアなニーズ」がきっとあると思うからである。
【参考URL】