研究紹介

研究内容

環境変動に対する海洋⽣態系の応答・適応メカニズムに関する分野横断・融合研究ターゲットの一つとして、気候や生態系の広範で急激な大きな構造転換である「レジームシフト」に焦点をあてます。

この現象には、海洋環境場における異なる時空間スケール変動間の連動性や⾮線形相互作⽤や生態系応答のさらに強い非線形性が本質的であると考えられていますが、その詳細メカニズムは明らかではありません。

レジームシフトの解明を通して生態系の変動メカニズムの理解を深化させることは、地球温暖化にともなうティッピングポイントの理解にもつながると期待されます。

本研究所では次の研究テーマを軸に研究を推進し、そこで得られた科学的知見とデータの集約化により融合研究を展開します。

研究テーマI:
気候・海洋・生態系の相互作用とレジーム・シフトの解明

⼤気海洋結合系の振動現象である太平洋10年規模変動と連動した、⿊潮続流の安定性の10年規模変動は、季節サイクルや⽇々の変動などの短周期変動、前線波動や海洋渦などの中⼩規模変動に影響を与えています。このうち、10年スケールから季節サイクルまでの海洋環境場の変動については、過去30年以上にわたる複数の観測プロジェクトが実施され、北西太平洋はその実態とメカニズムの理解が世界でも最も進んでいます。この知見を最新の自律型測器(Argoフロート・水中グライダーなど)や海底ケーブル設置型測器による観測データと組み合わせることで、幅広い時空間スケールでの理解が可能になります。さらに、現在、急速に活用が広がりつつある環境ゲノム(eDNA)情報や⽣物地球化学的データ、ゲノムレベルの可塑性や適応進化プロセスデータを、この環境変動過程の詳細情報と融合して効果的かつ効率的に活用できます。これにより、海洋環境場及び海洋低次⽣態系の、沿岸から外洋、表層から中深層、前線から⼤洋のスケール、⽇変化から10年周期変動における、時間的・空間的変動パターンを階層的に抽出し、時空間スケール間および変数間の連動性を、統計学的⼿法や機械学習を駆使して明らかにしていきます。

研究テーマI:気候・海洋・生態系の相互作用とレジーム・シフトの解明

研究テーマII:
環境変化に対する生態系の応答・適応・進化のメカニズムの解明

洋生態系の応答・適応メカニズムを解明するには、研究テーマIで実施する現象把握の時空間的な高解像度化に加えて、生物応答そのものを個体、個体群から群集レベルまで幅広く把握する必要があります。表層の基礎⽣産を担う海洋微⽣物⽣態系は、⽣態系の⾷物連鎖における⾼次⽣物の多様性や存在量、移動経路などに直接的な影響を与えています。⽣態学の理論においては、⽣態系における種間相互作⽤の変化は世代間よりもはるかに短い時間スケールで起こり、その変化の集積が⼤規模な群集レベルの⽣態系変動に影響を与えると考えられています。これまでに東北⼤学では、⽇本沿岸におけるeDNA モニタリング(ANEMONE)を10年以上にわたり実施し、⾮平衡・⾮線形の種間相互作⽤を分析することで、⽣態系の動的安定性指標を確⽴し、季節的な環境変動要因に対する群集・種間レベルの⽣態系応答の評価に成功してきました。

本研究では、JAMSTEC やハワイ⼤学における定点観測ステーションや海洋調査の機会、現場eDNA採取・分析デバイスを最⼤活⽤し、ANEMONE で実証されたeDNA の時空間変動解析の適応範囲を北⻄太平洋に拡⼤します。地球温暖化は、地球のあらゆる生態系に影響・負荷を与え、生物多様性の喪失を加速化させています。in situにおけるeDNA/RNA分析に加え、環境ストレッサーを加えたin situあるいはin vitroでの集積培養系による「カルチュロミクス」のアプローチを真核⽣物から原核⽣物、ウイルスや残存DNAを含む全ての核酸分⼦にまで適⽤し、海洋物理環境の周期的な挙動モードとそれを逸脱したイベントへの海洋⽣態系の潜在的な応答・適応性を、遺伝⼦発現や代謝産物レベルで明らかにします。

研究テーマII:環境変化に対する生態系の応答・適応・進化のメカニズムの解明

研究テーマIII:
海洋生態系の変動予測

環境変動と⽣産性の関係を定量的に捉えた将来予測のためには、物理環境の擾乱が海洋⽣態系にどのような影響を与え、⽣産性の維持や変化につながっているのか、メカニズムを理解し精緻に再現することが必要です。

JAMSTEC が開発した海洋⼤循環モデルでは、全海洋をカバーし中規模渦も⼀定程度表現できる⽔平解像度約10 kmの海洋物理環境を再現しています。このモデルに、研究テーマIで明らかにする変数間の連動性、およびIIで明らかにする遺伝子発現・代謝レベルでの応答・適応性をパラメタライズして組み込んだ海洋⽣態系モジュールを搭載し、観測データを同化することで、海洋生態系モジュールの検証と改良を行いつつ、 海洋の物理環境と⽣態系が相互作⽤する物質循環系を時空間的かつ定量的に理解します。加えて、⽣物分布を物質循環や気候形成に対する機能へ変換する⼿法を開発し、AI機械学習を活用することで、海洋物質循環と⽣産性の変化や人間活動への相互フィードバック機構の理解と予測の高度化につなげます。

研究テーマIII:海洋生態系の変動予測

融合研究

「レジーム・ シフト」を含む生態系応答・適応メカニズムを解明するためには、幅広い物理・生物現象の高時空間解像度での観測と数値モデルによる再現が必須です。沿岸域を含めた⼈⼯衛星データや海底ケーブル観測網により得られる海底圧力データなどを活⽤し、他観測では難しい⿊潮域や沿岸域の流れの観測を研究テーマIで実施します。これら⾰新的な観測技術により得られる観測データとIIIの数値モデルを融合することにより、高い時空間解像度での現象把握・再現を実現します。さらに、Iによる海洋物理学的な短周期的な変動パターンとIIによる⽣物多様性や機能性の動的安定性指標との相関について、AI機械学習を取り⼊れた数理・データ科学により解析し、時空間的な高解像度化と生物応答過程の高解像度化を両立させます。それにより、海洋⽣態系全体の安定性と適応性、そして⽣態系側から作⽤する潜在的な地球環境へのフィードバック機能の解明に迫ります。I~IIIの成果を融合し、現実の10年周期の海洋環境変動と⽣態系変動について、実際の観測データと実験データの同化による環境場の再現及びシステム検証を⾏います。

多数のアンサンブル実験は、⽣物分布、⽣産性の変動性がとり得る多数の状態の可能性(不確定性)と位置づけられ、多様性形成の本質的理解につながります。海洋の近未来予測にとって重要な変動である10年変動を、予測精度の評価を含んで予測することに加え、漁業活動等の⼈間活動に関する変数も予測することで、環境と社会が相互に影響しあって変化する系のダイナミックな予測を実現し、地球温暖化の適応・緩和策、海洋及び生態系の再生と回復など、持続可能性創出に資する惑星スチュワードシップに貢献することができます。

課題I~IIIおよびそれらの融合研究の成果と中間プロダクトを順次データベース化し、これに基づく海洋生態系のための生成系AIのプロトタイプを作成して、さらなる 分野融合研究に活用するとともに、10年間で一般に公開可能な生成系AIの構築を目指します。

融合研究

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