-メタン生成古細菌がメタン生成能を失う適応進化-
2024.06.14
理化学研究所(理研)開拓研究本部鈴木地球・惑星生命科学研究室の鈴木志野主任研究員、海洋研究開発機構超先鋭研究開発部門の石井俊一副主任研究員、東京薬科大学生命科学部の田中勇吾博士前期課程学生(研究当時)、高妻篤史助教、渡邉一哉教授、東北大学・海洋研究開発機構変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)の稲垣史生上席研究員らの国際共同研究グループは、マントル由来の岩石域から湧出する強アルカリ[1]・超還元的[2]な地下湧水や海洋熱水中に、メタン生成能を失うという常識外れな適応進化を遂げた「元メタン生成古細菌」が広く分布することを発見しました。
メタン生成古細菌は、一般に水素と二酸化炭素からメタンを作ることで生存しています。詳細な解析の結果、地下湧水「ザ・シダーズ」に生息する元メタン生成古細菌は、水素ではなく、還元性の高い鉱物から電子を直接受け取る能力を持ち、それを用いて二酸化炭素を固定し、最終産物として酢酸を作ることで、本環境で効率的に生息している可能性が示されました。本研究成果は、微生物の持つ炭素固定経路の適応進化戦略の解明とその利用、惑星における生命生息可能性(ハビタビリティー)の理解に貢献することが期待できます。
本研究は、科学雑誌『Nature Communications』オンライン版(6月13日付:日本時間6月13日)に掲載されました。
[1] 強アルカリ
非常に塩基的な水溶液。水素イオン指数(pH)が7より大きく塩基的なことをアルカリ性、pH11以上の場合を強アルカリ性という。pHが高いということは、水素イオン濃度が低いことを意味し、強アルカリ性環境は、生命の維持が困難な極限環境の一つである。
[2] 還元的
酸素が存在せず、水素(電子)が多く存在する水溶液の性質を表し、酸化還元状態は水溶液中に遊離している電子の量(電位)を測ることで知ることができる。「ザ・シダーズ」蛇紋岩流体の酸化還元電位(Eh)は-700mVから-550mV。
Shino Suzuki, Shunichi Ishii, Grayson L. Chadwick, Yugo Tanaka, Atsushi Kouzuma, Kazuya Watanabe, Fumio Inagaki, Mads Albertsen, Per H. Nielsen, Kenneth H. Nealson, "A non-methanogenic archaeon within the order Methanocellales", Nature Communications.