2026.08.07
国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 河村 知彦、以下「JAMSTEC」という。)情報地球科学研究部門のEttore Barbieri主任研究員と同物質地球科学研究部門の石川尚人主任研究員は、数学的技法「重ね合わせ法(Superposition)」を用いて、海の中で誰が誰を食べるかをつないで描かれる、極めて複雑な生物同士のネットワークを、生物の栄養位置というたった一種類のデータだけから、80%以上という高い正解率で復元することに成功しました。
急速に変化する世界において、生物多様性を保全し、持続可能な漁業を管理していくためには、生態系のエネルギーの流れを理解することが不可欠です。ここでのキーワードは、栄養位置(ある生物が食物網の中で占める地位)です。栄養位置は、生物の安定同位体分析によって比較的簡単に推定できますが、その推定値を全ての捕食者と餌生物の関係まで網羅したネットワークへと変換することは困難でした。
そこで研究チームは、ある捕食者とある餌生物の栄養位置のみから、両者の間に食べる・食べられる関係が存在する確率を計算し、それを全ての捕食者と餌生物のペアで繰り返す「重ね合わせ法(Superposition)」を用いて、生物同士のネットワーク全体を紐解く革新的な手法を開発しました。これをEcoBase※4とよばれるデータベースに収録された全世界158の食物網にあてはめたところ、80%を超える正解率で生物同士のネットワークを復元できることが分かりました。
この手法を用い、フィールド観測と安定同位体分析による生物の栄養位置の推定、そして異分野で発展してきた数学的技法を組み合わせることで、これまで目で見ることが難しかった生物同士のネットワークを可視化できるようになります。将来的には、気候変動や人間活動の影響下における、野生動物、漁業資源、保護区域の管理・保全・持続的利用に対して大きく貢献することが期待されます。
本成果は、英国生態学会誌の「Methods in Ecology and Evolution」に8月6日付け(日本時間)で掲載されました。本研究は、JSPS科研費(22K19857)、JST創発的研究支援事業(JPMJFR2418)の助成および文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」の支援を受けて実施しました。
また、本研究は変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)が解明を目指す課題、グランドチャレンジ※5の「海洋生態系の物理化学的要因に対する適応性と脆弱性の解明」「表層とトワイライトゾーンの生態系相互作用と生物地球化学的循環への影響」「海洋生態系の変化予測による惑星スチュワードシップの促進」に貢献するものです。

※4 EcoBase
全世界の様々な食物網データ(生物同士のネットワークが既にわかっているデータセット)を収録するオープンデータベース。
https://ecobase.ecopath.org
※5 グランドチャレンジ
WPI-AIMECが2025年8月に定めた、海洋生態系の変化をめぐる、包括的で本質的でありながら未解明の5つの重要課題。
https://wpi-aimec.jp/news/2624/
タイトル:The Superposition Method for the Reconstruction of Food Webs
著者:Ettore Barbieri1,2, 石川 尚人3
1. 海洋研究開発機構 情報地球科学研究部門 数理科学・先端技術研究開発センター
2. 東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)
3. 海洋研究開発機構 物質地球科学研究部門 生物地球化学センター