海の杜(No.10、2025年3月1日)
現在、世界の海に展開されたアルゴ(Argo)フロート(本稿では以下、ブイと表現)による海洋監視が行われています。1998年に提案されたこの計画は、国際アルゴ計画と呼ばれ、2000年から本格的に走り出しました(参考 URL-1(海外)、-2(国内))。日本では、2000年度から科学技術庁振興調整費FS研究で走る予定でしたが、当時の小渕内閣の「ミレニアム・プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)」に選ばれ、2004年度までの5年間走りました。終了後も、海洋研究開発機構と気象庁がブイ展開の中心となり、大学なども運営に参加するAll-Japan体制でプロジェクトは進められています。
ブイは長さ2メートル、直径0.3メートル程度の円柱形で、通常1000メートル深を10日間、漂流します。その後いったん2000メートル深まで潜り、海面への浮上過程で水温と塩分を計測します。計測データは海面で人工衛星に送られます。その後ブイは再び1000メートル深まで潜り、漂流することになります。当初の国際アルゴ計画では、緯度経度3度ごとに1台のブイを展開することを目標としました。これには3000台のブイが必要ですが、幸い多くの国々が参加し、2007年11月に目標は達成されました。
現在、上記の計画を「コア(core)」アルゴ計画と呼びます。その後、ブイ本体やセンサーの改良・開発が進み、より深くまで計測する「深層(deep)アルゴ」計画や、pH(水素イオン指数)や酸素濃度などを計測する「生物地球化学(bio-geochemistry:BGC)アルゴ」計画も走り出しました。現在、これら3種類のアルゴ計画を一体的に運用する「OneArgo」計画が動き出そうとしています。
本AIMECではこのブイによる海洋監視を強力に進めることとしています。AIMECの主な対象海域を北西太平洋としていますが、この海域は黒潮と親潮が流れる亜熱帯から亜寒帯の遷移域にあたります。したがって、複雑な物理・化学構造を呈し、生態学的にも特徴的な海域となっています。AIMECでは最終的に数値モデルによる未来予測を行いますが、ブイによる海洋監視は必要不可欠の項目であるのです。
最後に「アルゴ(Argo)」という名称のことです。当初は、「Array for Real-Time Geostrophic Oceanography(即時地衡平衡海洋学のためのアレイ)」の頭文字を連ねた「ARGO」でした。しかし、海洋物理の研究者でもすぐには理解できない名称です。そこで現在は、ギリシア神話でイアースン(英語ではジェイスン)がコルキス国へ「金の羊毛」を奪ってくるときに乗船した船である「Argo」号から採った、としています。
【参考URL】
1. カルフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所のArgo計画のサイト
https://argo.ucsd.edu/
2.Argo計画の日本公式サイト(海洋研究開発機構)
https://www.jamstec.go.jp/J-ARGO/