コラム

海の杜(No.11、2025年4月1日)

WPI-AIMECについて-その8 環境DNAによる海洋生物の監視

 本AIMECでは、環境DNA(以下、eDNA)を利用した海洋生物の多様性の監視を進めることとしています(本コラム、No.9 参照)。eDNAとは、生物から環境に放出されたDNA(デオキシリボ核酸:遺伝情報を含む)のことです。生物は、種ごとに固有のDNAを持つ毛髪や皮膚、粘液などの生体の一部を環境中に放出します。これらを採取しDNAを分析することで、その生物がその場所に存在していたことを確認することができます。

一般にある生物がその場所に存在するかどうかは、人間の目で見たり、カメラを据えてあとで画像を確認したりすることで判断します。しかし、これでは広大な海洋で、どの生物がどこに存在するのかを網羅的・時系列的に監視することは全く不可能です。しかし、このeDNAの分析による生物の同定は、定期的に海水を採取することで済みますので、海洋生物の多様性の監視には大変有効な手法なのです。

 フランスの研究者たちが、水中に棲む動物の同定にこの手法が使えると、2008年に初めて報告しました(参考文献-1)。2010年代に入ると、日本でも多くの研究者がeDNA分析による生物同定に挑戦し、世界をけん引する成果を上げてきました。その成果をもとに、2018年4月には環境DNA学会が設立されています。初代会長は本AIMECのPIでユニットリーダーも務める東北大学大学院生命科学研究科の近藤倫生教授です(参考URL-1)

 近藤先生たちが立ち上げたeDNAを利用した海洋生物の多様性モニタリング計画に「ANEMONE」(アネモネと発音)があります(参考URL-2)。ANEMONEは、「All Nippon eDNA Monitoring Network(環境DNAを利用した生物多様性観測ネットワーク)」の下線部を連ねたものです。大学や研究所、地方自治体、企業などが協力し、2019年に始まりました。定期的な観測点(海水採取地点)は、日本の沿岸を覆い尽くしています。また、外洋域にも次第に観測地点が広がっています。そしてこれらのデータは、2022年6月から一般に公開され、誰にでも使用できる状態にあります。

 ところで、生物から放出されたDNAは、海水中にどのくらい保存されているのでしょうか。もし、永久に壊れずに残存したとしたらどうでしょう。逆に、すぐに壊れてしまったらどうでしょう。どちらも海洋監視には適さないですね。幸いなことに、実際は環境条件により異なりますが、魚などから放出されたDNAは数日から数週間の期間、保存されることが分かっています。すなわち、季節変化を十分に捉えられる監視手法なのです。

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