コラム

海の杜(No.12、2025年5月1日)

WPI-AIMECについて-その9 テーマⅢ

 本AIMECの3つ目の研究テーマは「海洋生態系の変化の予測」です。海洋生態系の過去の変動と現状を把握し、変動の仕組みを理解することで、適切にモデルを構築し、将来を予測することが可能となります。地球温暖化が進行している中で、海洋生態系が将来どのように変動していくのかを予測することは、「惑星(地球)スチュワードシップ」(本コラム No.3 参照)の確立のためには必須の作業となります。

 テーマⅢには以下のような3つのサブテーマが設けられています。

1) 先進的地球システムモデルの開発
 このサブテーマでは、大気と海洋の物理環境を再現する大気海洋結合モデル(気候モデル)と、化学物質や生態系の変動を再現する海洋生態系・物質循環モデルを組み合わせた「地球システムモデル(Earth System Model: ESM)」を開発します。前者に比較し、はるかに複雑な後者の変動をどのようにパラメタ化して計算するのかが開発のポイントとなります。ESMの開発は日進月歩と言えるほど急速に進展しつつある分野です。

2)実デジタル地球と仮想デジタル地球の整合性の検証
将来予測のためには、まず、モデルで再現された変動が現実をどの程度再現しているのかを検証することが重要となります。ここでは、数十年スケール変動を再現する低解像度モデルと、物理環境と生態系の変動を複雑な地形の下で詳細に再現する沿岸域に特化した高解像度モデルの双方を検証します。前者のモデルでは数十年変動、すなわちレジームシフトの過去生起状態を再現することが目標となります。

3)AIを活用したアプローチ
 AI技術の進歩は著しく、多くの分野で様々に活用されつつあります。本AIMECにおいても、観測データに適用して海洋熱波など特異な変動パターンの検出などに利用するほか、観測データの取得、モデルの改良、モデルによる観測計画の最適化というサイクル全体を、AI技術を活用して一挙に向上させる取り組みを行います。AI技術の進歩も著しく、思いもかけないAI技術の利用の仕方が研究の過程で生まれる可能性があると考えています。

 テーマⅢの目標は、現実空間の大量の情報から、サイバー内の仮想空間で地球の「デジタルツイン」を作成し、将来をシミュレートすること、と言い換えることができます。

 次回は、テーマⅢにおいてキイとなるESMについて解説することにします。

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