海の杜(No.13、2025年6月1日)
ある「変動現象を理解すること」と、その「変動現象の将来を的確に予測できること」は、まったく同値(同じ意味)です。すなわち、変動の背後に働いている法則性を正しく理解すれば、適切な予測モデルを作成することが可能となり、それを用いて将来を正しく予測できることになります。
AIMECの目標は、地球温暖化が進む中で、変動する海洋の物理的・化学的、そして生物学的環境の変動の下、海洋の生態系がどのようなふるまいをするのか、そしてそれが海洋環境にどのようにフィードバックをかけるのかの将来予測をすることです。そのための将来予測モデルが「地球システムモデル(Earth System Model: ESM)」です。このESMを紹介するのが、今回と次回のこの欄のテーマです。
短期間の天気を予測するためには、大気運動を記述する方程式や太陽からの熱エネルギーの入射も含む地球上の熱の移動を記述する方程式などを組み合わせた数値モデルを用います。予測期間は1~2週間と短いので、大気が接している海洋や陸上の状態は不変として扱います。すなわち、モデルは本質的に大気のみが変動する大気モデルです。
予測する時間を延ばすと、海洋の変化もきちんと追いかけないと正しい予測になりません。そこで、海洋の変動も加味して予測することになります。このモデルは、大気海洋結合モデル(Atmosphere-Ocean Coupled Model)、あるいは気候モデル(Climate Model)と呼ばれています。
さて、地球温暖化は大気中の温室効果気体の濃度上昇が原因です。代表的な温室効果気体の二酸化炭素(CO2)の濃度は、観測から正確にわかっています。人間活動で放出したCO2の約半分が大気に残り、残りは陸上植物圏と海洋が吸収しています。その吸収量には、ある年は海洋が、ある年は陸上植物圏が、より大量に吸収するなど、大きな年々変動があることもわかっています。地球温暖化を含む気候の将来予測のためには、CO2などの地球上のふるまい(Carbon Cycle: 炭素循環)も正しく予測する必要があります。
そのためには、炭素循環を支配する法則性を理解し、地球上での移動のモデルを作る必要があります。そして、気候モデルと炭素循環モデルを含む予測モデルへと、拡張することになります。このように、気候モデルと他の要素を加味して地球気候の将来を予測するモデルを、一般にESMと呼んでいるのです。