コラム

海の杜(No.14、2025年7月1日)

WPI-AIMECについて-その11 地球システムモデル(2)

 「長期にわたる大気の総合状態」が「気候(climate)」です。「縄文時代の気候は湿潤で温暖であった」などと使います。気候を具現化しているのは大気ですが、気候は、気圏(atmosphere:sphereは球面を意味し、地球を囲む状態を指す)、水圏(hydrosphere)、地圏(geosphere)、雪氷圏(cryosphere)、生物圏(biosphere)の5つの要素間の相互作用で決まり、これら総体を「気候システム」と呼んでいます。近年は、人間の活動が気候の形成と変化に大きな影響を与えているとし、人間圏(anthroposphere)を加え、「気候システムは6つの要素から構成されている」などとも表現しています。

 将来の気候がどのように変遷して行くのかを調べるために、前回述べた大気海洋結合モデル(気候モデル)が開発されました。モデルでは、温室効果気体である二酸化炭素の濃度は既知として与えられます。しかし、2000年代に入ると、大気の二酸化炭素濃度も気候システムの中で決めるべきとの方向に進みます。「炭素循環モデル」の導入です。すなわち、気候予測のモデルは、生物地球化学的(biogeochemical)過程も入れた「地球システムモデル(Earth System Model:ESM)」へと拡張されたのです。

 AIMECの研究者は、日本のESMの一つである「MIROC(Model for Interdisciplinary Research on Climate:気候に関する学際研究用モデル)」の開発に参加しています(例えば、参考文献)。国際プロジェクト「CMIP5(Coupled Model Intercomparison Project 5:第5次結合モデル相互比較プロジェクト)」で使った日本のESMモデル、「MIROC-ESM-CHEM」を、以下、サブモデルの役割と名称のみですが簡単に紹介します。

 大気の大循環モデルはMIROC-AGCM(T42L80)、エアロゾル(微粒子)の移動・拡散過程はSPRINTARS、大気化学過程はCHASERで、海洋の大循環モデルはCOCO、生物地球化学過程はOECOで、陸上の植生などによる水の移動過程はMATSIRO、生物地球化学過程はSEIB-DGVMで計算します。河川水の移動にはTRIP(河川流路情報網)を用います。大気、海洋、陸面の間では、運動量や熱、水などの移動の量を計算して与えています。

 上記のモデルは2010年代前半に開発されました。現在はさらなる改良が行われ、「CMIP6」プロジェクトに参加しています。ESMはまさに日進月歩の勢いで改良が加えられているのです。これらESMは、将来気候の予測はもちろん、温暖化被害の軽減のためにはどのような方策をとるのが良いのかなど、政策決定者(policymaker)の判断に資するような結果を出すためにも活用されています。AIMECは、ESMのさらなる高度化を目指します。

ページトップへ