ニュース

ニュース

2025.8.22

WPI-AIMEC「グランドチャレンジ」を策定

WPI-AIMECの研究者は、海洋生態系の変化を理解し予測するために詳細な検討を重ね、それを導く5つの「グランドチャレンジ」を策定しました。「グランドチャレンジ」とは、海洋生態系の変化に関して包括的かつ重要でありながら、依然として十分に理解されていない課題です。WPI-AIMECは、最先端の分野融合研究と国際的な頭脳循環を通じて、これらの課題の解決に挑み、革新的な科学の創出と実践的な予測の実現を目指します。それにより、持続可能な海洋、地球、人間社会の創出に向けた「惑星スチュワードシップ」に貢献します。

第1のグランドチャレンジは、「海洋生態系の物理化学的要因に対する適応性と脆弱性の解明」です。現在、海洋生態系は、海洋温暖化、酸性化、脱酸素化、栄養塩バランスの崩壊など、多様な物理化学的ストレスに直面しています。WPI-AIMECは、海洋生物のさまざまな階層における適応性と脆弱性を支配する、物理学的・化学的・生態学的メカニズムの解明に取り組み、海洋生態系の応答や機能変化を評価・予測する新たな指標の開発につなげます。この課題を解き明かすことは、生物多様性の保全、沿岸コミュニティの保護、そして持続可能な未来に向けたネイチャー・ポジティブな意思決定に役立ちます。

第2のグランドチャレンジは、「気候―海洋―生態系の連動性と時空間変動の解明」です。物理的プロセスと生態学的プロセスの多様な相互作用は、沿岸域や外洋の生態系の安定性と動態に影響を及ぼします。比較的安定で持続的な状態から別の状態へ移行する「レジームシフト」の軌道を左右する重要な要因です。WPI-AIMECでは、広範かつ詳細な観測データを用いた新たな統合的アプローチやモデルを開発し、生態系レジームシフトを信頼性高く早期に検出することを目指します。

第3のグランドチャレンジは、「表層とトワイライトゾーンの生態系相互作用と生物地球化学的循環への影響」です。気候変動が大型海洋生態系に与える将来の影響には、依然として大きな不確実性があります。特に、表層から200〜1000メートルの深さにある「トワイライトゾーン」と表層の生態系の関係性は、栄養源や炭素の移動にとって重要であるにも関わらず、その科学的な理解は限られています。WPI-AIMECは、「生物ポンプ」と「海洋循環」の相互作用を解明し、その予測に挑みます。生物地球化学(BGC) Argoフロートを含む多様な観測プラットフォームの季節変動の解析や、海洋粒子の超高分解能分析などにより、植物プランクトンや動物プランクトンが上位捕食者(魚類など)との間で物質やエネルギーをどのように仲介しているかを明らかにします。これらの知見は、世界の漁業、炭素貯留、気候調節に大きな影響を与える可能性があります。

第4のグランドチャレンジは、「沿岸海洋生態系の複雑性と人間活動の影響の理解」です。沿岸地域における人間社会と生態系の相互作用と海洋学的プロセスの連関は、世界でも最も複雑なシステムの一つです。WPI-AIMECでは、女川湾と陸奥湾をモデル地域として、沿岸から外洋に至る生態系の構造と機能の移行パターンを明らかにし、複数の人為的ストレス要因が沿岸生態系に与える累積的影響を定量化します。さらに、台風や豪雨など沿岸域で発生する極端気象に伴う陸海相互作用や、人間活動によって生じるマイクロプラスチックなどの物質の拡散・分解過程、それらに対する生態系の応答性・適応性の解明にも挑みます。これらの知見は、沿岸資源の管理や保護の改善に役立ちます。

最後に、第5のグランドチャレンジは「海洋生態系の変化予測による惑星スチュワードシップの促進」です。WPI-AIMECでは、 高度な海洋生態系予測を実現するために、衛星観測、海面観測、人工知能(AI)を活用した最新の技術や海洋生態系のデータを取り入れた先進的な地球システムモデル(ESM)の構築を目指します。さらに、ステークホルダーが問題の特定段階から参画する超学際的なアプローチを導入し、これらの知見を一般社会に向けて分かりやすく発信・共有することで、気候ー海洋ー生態系の変化、海洋環境の保護と回復、SDGsの達成に向けた国際的な政策や規範形成などの「惑星スチュワードシップ」の促進に貢献します。

これらのグランドチャレンジは壮大かつ複雑ですが、WPI-AIMECの野心的なミッションに向けた初期のロードマップを提供します。これらは、海洋生態系の変化を理解し予測する研究を導くとともに、科学的知見と社会的ニーズを結びつける役割を果たします。研究が進展するにつれて、このロードマップは見直され、改善され、取り組みを軌道に乗せ続けることができます。こうした取り組みを通じて、WPI-AIMECは、将来の世代のためにレジリエントな海洋と健全な地球を支えることを目指しています。

Nature article
https://www.nature.com/articles/d42473-025-00185-9

Grand Challenges Executive Summary: [EarthArXiv link]
https://doi.org/10.31223/X55R0J

一覧に戻る

ページトップへ