研究ハイライト

東海地方に豪雨と猛暑をもたらしたのは「黒潮の大蛇行」の影響と解明

~黒潮が及ぼす影響を高解像度の気候シミュレーションで分析~

2024.12.23

  • 国立研究開発法人海洋研究開発機構
  • 東北大学・海洋研究開発機構
  • 変動海洋エコシステム高等研究所

【発表のポイント】

  • 黒潮大蛇行(注1)により東海地方の夏季降水量が増加することを発見し、それが、台風や2020年豪雨などの降水量にも影響を与えていたことを明らかにしました。
  • 東海地方の降水量増加は、黒潮大蛇行に伴う水蒸気の増加によって大気が不安定化したことが要因であると指摘しました。
  • 黒潮大蛇行で増加した水蒸気が、東海地方に猛暑をもたらしたと言えます。
  • 黒潮が社会生活に及ぼす影響を明確にしたものであり、防災・減災への貢献が期待される重要な成果です。

【概要】

黒潮大蛇行が7年以上も続くなど、近年、日本周辺の海は大きく変わりつつあります。海の変化が私たちの暮らしに与える影響が懸念されています。
 東北大学大学院理学研究科、東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)兼務の杉本周作准教授は、高解像度の気候シミュレーション(注2)を行い、黒潮大蛇行が日本の夏季気候に与える影響を詳細に分析しました。その結果、黒潮が大蛇行している時期には、海から東海地方へ大量の水蒸気が供給されることにより、温室効果で夏が一層暑くなることに加え、大気が不安定になり、降水量が増加することが明らかになりました。
 この成果は、近年東海地方を襲った豪雨の一因が黒潮大蛇行にあることを初めて示したものです。地球温暖化による大気中の水蒸気増加が報告される中、黒潮大蛇行が続くことで、今後も東海地方の太平洋側において豪雨災害のリスクが高まることが懸念されます。本研究は、防災・減災の取り組みに新たな知見を提供し、気象災害への対策に貢献する重要な成果です。
 本研究成果は、日本海洋学会の英文国際誌Journal of Oceanographyオンライン版にて12月22日(日本時間)に早期公開されました。

【詳細な説明】

研究の背景

 近年、日本近海の海流変化が気候に与える影響に注目が集まっています。特に、世界最大級の海流である黒潮は、2017年夏に大蛇行流路に遷移し、その後7年が経過した現在も継続しており、観測史上最長の期間を更新しています。従来の見解では、本州から黒潮が離れる大蛇行流路では、東海・関東沖の水温が低下すると考えられていました。しかし、最新の衛星観測データによると、実際には水温が上昇し(図1)、蒸発が活発化していることが明らかになりました(Sugimoto et al. 2021、https://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20210304-11470.html)。この現象は、降水量や地域の気候に影響を及ぼす可能性が指摘されます。

今回の取り組み

 東北大学大学院理学研究科の杉本周作准教授による高解像度の気候シミュレーションでは、黒潮大蛇行によって東海地方から関東地方にかけて降水量が約1.3倍に増加していることがわかりました(図2)。この降水量増加は、黒潮大蛇行に伴う沿岸の水温上昇による蒸発の活発化と、夏の南風によって日本に流れ込む水蒸気の量が増加により、大気が不安定化した結果であることが明らかになりました(図3)。さらに、シミュレーションの結果、増加した水蒸気の温室効果によって、東海地方の気温が約1度上昇することも確認されました。

 東海・関東沖では、黒潮大蛇行期間中(2017年夏以降)のほとんどで海洋熱波(注3)が発生しており、最大級の5度の水温上昇を想定したシミュレーションでは、東海地方から関東地方にかけて降水量が1.5倍に増加し、気温も東海地方で約1.6度、関東地方で約1.0度上昇することが判明しました。この5度の水温上昇は、地球温暖化が進行した場合、今世紀末に予測される水温上昇と同程度であり、本研究の結果は、温暖化に伴う将来気候を示唆するものでもあります。

今後の展開

 近年増加する気象災害は、地球温暖化による大気中の水蒸気増加と深く関連していると指摘されています。本研究を通じて、2020年豪雨や台風など、東海地方に甚大な被害をもたらした気象災害に黒潮大蛇行が影響していたことを明らかしました。今後も黒潮大蛇行が継続すると、東海地方から関東地方にかけて夏季の降水量増加や気温上昇が予想され、厳しい夏が訪れる可能性があります。このため、黒潮の動向を継続的に監視し、気象災害に対する防災・減災対策を早急に強化することがますます重要になると考えています。

図1.黒潮が大蛇行していた2021年7月1日の海面水温の平年差。青矢印は黒潮の流路を表す。
図1.黒潮が大蛇行していた2021年7月1日の海面水温の平年差。青矢印は黒潮の流路を表す。
図2.黒潮大蛇行による夏の降水量増加率(気候シミュレーション結果)。
図2.黒潮大蛇行による夏の降水量増加率(気候シミュレーション結果)。
図3. 東海・関東地方への黒潮大蛇行の影響を表す模式図。
図3. 東海・関東地方への黒潮大蛇行の影響を表す模式図。

【謝辞】

本研究は日本学術振興会科研費補助金(JSPS KAKENHI Grant Numbers 19H05704, 22K03714, and 24H02221)、科学技術振興機構 戦略的国際共同研究プログラム e-ASIA共同研究プログラム(JPMJSC21E7)による支援を受けて実施されました。

【用語説明】

注1. 黒潮大蛇行
黒潮は、九州の南から四国の沖合まで北上して最後は房総沖から東に流れて列島から遠ざかる海流。ほぼ列島に沿って流れる「直進型」と、紀伊半島沖でいったん大きく沖に出て房総半島の近くに戻ってくる「蛇行型」がある。気象庁は、蛇行型のうちでも沖へ出ていく幅が北緯32度より南まで蛇行した場合を「大蛇行」と呼んでいる。

注2. 気候シミュレーション
東北大学サイバーサイエンスセンターのスーパーコンピューター上で、気象庁非静力学大気モデルを用いて気候シミュレーションを行った。本研究では黒潮大蛇行に伴う水温上昇がある海とそうではない海を用意し、計算された大気場を比較した。なお、気候シミュレーションは海洋変化の影響を十分に表現できるように5 kmの高解像度で実施している。

注3. 海洋熱波
海面水温が数日以上にわたり異常に高い状態が持続する現象。

論文情報

タイトル

Marine Heatwave off Tokai, Japan, attributed to the Kuroshio Large Meander Path, and an associated increase in summer rainfall over Japan

著者

Shusaku Sugimoto*

*責任著者

東北大学大学院理学研究科 准教授 杉本周作

掲載誌

Journal of Oceanography

DOI

DOI:10.1007/s10872-024-00741-9

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