コラム

海の杜(No.7、2024年12月1日)

WPI-AIMECについて-その4 テーマⅠ

 AIMECの3つの研究テーマの1番目は、「気候・海洋・生態系の相互作用とレジームシフトの解明」です。このテーマには、以下に示す3つのサブテーマが設けられています。それぞれについて簡単に紹介します。

1) 時空間変動スケールを超えた連動性と非線形相互作用

 大気や海洋では、小さな空間スケールの現象は時間スケールが短く、大きな空間スケールの現象は長い、という関係があります。これら異なるスケールの現象は互いに独立ではなく、相互に影響を与えあっています(相互作用)。しかし、残念ながら私たちの相互作用への理解は不十分です。ましてや物理環境と生態系の相互作用の解明は研究の緒についたばかりです。加わる力の形と応答の形が相似形をしていないとき、系は非線形であると表現しますが、物理環境と生態系の関係はまさに非線形的であることが予想されますので、とてもチャレンジングなサブテーマです。

2)BGCアルゴと海底ケーブル観測による海洋生態系のミッシングリンクの探索

 表題のBGCアルゴとは、溶存酸素、pH(水素イオン指数)などの生物地球化学(biogeochemical:BGC)的項目を計測するアルゴフロートのことで、現在世界の海で急速に展開が進められています。また、海底ケーブルとは、多数の海底地震計を結ぶケーブルのことで、海底での水圧も多地点で計測しています。これらの資料を用いて、物理環境と生態系、そして物質循環の3者間の、現在はまだ分かっていない関係性(missing link)を解明するのがこのサブテーマです。

3)レジームシフトメカニズムの理解

 日本近海のマイワシやサバ、南米ペルー沖のカタクチイワシなどの資源量は、十年から数十年スケールで大きく変動しています。この変動はレジームシフトと名付けられました。一方海面水温などの資料から、十年から数十年の時間間隔で、気候が急変する現象が知られていました。これらは気候のレジームシフトと呼ばれています。これら二つのレジームシフトの生起のメカニズムと、両者の関係性を解明するのが、このサブテーマです。現在は、自然振動に加えて人為的な地球温暖化が進行中です。地球温暖化がレジームシフトの生起にどのような影響を与えているのかも重要な研究対象です。

 「レジームシフト」は当初水産資源変動の研究分野で導入された概念です。次回は、この概念が導入された経緯などについて紹介します。

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