コラム

海の杜(No.6、2024年11月1日)

WPI-AIMECについて-その3 研究の背景と3つのテーマ

 本AIMECのミッション(使命)は、「地球システム変動に対する海洋生態系の応答・適応メカニズムの解明と予測」です(本コラムNo.4 参照)。この稿ではもう少し具体的に研究の背景と目的について述べることにします。AIMECウェブサイトの研究紹介と基本的には同じ内容ですが、説明の力点や言葉使いを違えることで、さらに理解を深めてもらおうとの意図で本稿を準備しました。

 まず、研究の背景です。「気候」とは、長期間で平均した大気状態のことです。この気候は、地圏、水圏、気圏、雪氷圏、生物圏、人間圏の6つの圏(sphere)間の相互作用で決まることから、これら6つの要素をまとめて「気候システム」と呼んでいます。水圏の中で海洋は、その大部分を占めています。

 さて、気候も、海洋も時間的に不変ではありません。外力や内在する種々の要因のために、常に揺らいでいます(自然振動)。加えて、産業革命以降の人間活動により、大気中に二酸化炭素などの温室効果ガスが滞留・蓄積したことで、一方向の気候変化である地球温暖化が進行しています(人為的変化)。

 気候の自然振動にはさまざまな時間スケールを持つ現象が知られています。1年周期の季節変動、数年おきに生じるエルニーニョ/ラニーニャによる突発的な変動、十年から数十年おきに生じるステップ(階段)状の変動などです。本AIMECが特に注目しているのは、十年から数十年おきに太平洋で生じる階段状の変動で、太平洋十年規模変動(Pacific Decadal Oscillation:PDO)とも呼ばれています。また、その急激な遷移のことを気候のジャンプ、あるいは「レジームシフト(regime shift)」と表現します。

 このレジームシフトが起こるメカニズムや、温暖化やレジームシフトに伴う海洋環境の変動や変化の実態を解明すること、その変動・変化に対して海洋生態系がどのように応答するのか、適応するのか、そして進化するのかを明らかにすること、そしてそれがどのように海洋環境や気候にフィードバックをかけるのかを明らかにすること、そしてそれらを予測できる数値モデルを確立すること、が研究の目的です。

 これらの目的を達成するため、次の3つの研究テーマを設定しました。「Ⅰ.気候・海洋・生態系の相互作用とレジームシフトの解明」「Ⅱ.環境変化に対する生態系の応答・適応・進化のメカニズム解明」「Ⅲ.海洋生態系の変動予測」です。

 次回以降、テーマごとにその中身を説明することにします。

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