コラム

海の杜(No.29、2026年10月1日)

用語解説(7):生物ポンプ

 物質循環の中でも炭素循環の定量的解明はとりわけ重要です。人類の活動で大気中に放出された二酸化炭素が、陸上植物圏や海洋にどれだけ吸収され、その吸収された二酸化炭素がどのようなプロセスで地球表層を循環しているのかを解明することは、地球温暖化の将来予測を精密に行ううえで本質的に重要だからです。

 二酸化炭素は、これまで説明してきたように、大気と海洋の二酸化炭素の圧力(分圧)の大小により、海が吸収したり、逆に海が放出したりします。現在海洋は、熱帯域と亜寒帯域で二酸化炭素を放出し、亜熱帯域で吸収しています。結果として、人類が大気へ放出している二酸化炭素の約20~25%を海洋が吸収しています(参考URL-1)。なお、産業革命以前の大気の二酸化炭素濃度は約280ppmでしたが、現在とは逆に、海洋が二酸化炭素を大気へ放出していたと評価されています(参考URL-2)。

 吸収された二酸化炭素はそのまま溶存しているほか、炭酸イオンや炭酸水素イオンの形で、海洋内の流れで移動したり(移流:advection)、乱れにより拡散(diffusion)したりします。いずれも海洋内でのゆっくりした循環となります。

 一方で、吸収された二酸化炭素の一部は、植物プランクトンによる光合成で有機炭素となったり、無機物の炭酸カルシウムとなりプランクトンの体組織となったりします。これらのプランクトンはその生を終えると海底へと沈降します。沈降することは表層の炭素が海底へと素早く移動することを意味します。この炭素の移動過程を、「生物ポンプ(biological pump)」と呼んでいます。生物が炭素を海底へと押し込んでいるとのイメージです。なお、沈降の途中や海底で、炭素化合物は再無機化(remineralization)過程で無機炭素や炭酸塩に戻りますが、これには長い時間がかかります。

 AIMECの研究者も参加した最近の研究で、生物ポンプの定量的評価がなされました(参考文献-1)。光合成の過程で酸素が形成されます。この酸素に着目し、その収支を丁寧に解析することで、生物活動で1年間に吸収される二酸化炭素の空間分布と総量を明らかにしたのです。その結果、生物ポンプによって炭素の量で年間74億トン押し込んでいることを示しました。この値は従来の約130億トンという見積もりの約半分です。従来の見積もりは過大評価であったのです。また、高緯度域や熱帯域では、この生物ポンプが海洋の二酸化炭素取り込みの主要なプロセスであることも示しました。このような過程は、適切に地球システムモデル(ESM)に組み入れられるべきものです。

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