海洋瑣談(No.8、2025年1月15日)
世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)は1月10日、「WMO confirms 2024 as warmest year on record at about 1.55℃ above pre-industrial level(WMOは、2024年が産業革命以前よりも1.55℃高い、最も暖かい年であると確認する)」と題する報道発表を行った(参考URL-1)。
ヨーロッパの「コペルニクス気候変動サービス(Copernicus Climate Change Service: C3S)」などの気象機関は、既に昨年11月ごろから、2024年の世界平均気温はそれまでの最高だった2023年を上回り、観測史上最高となることが確実である、との報道発表を行っていた(参考URL-2)。今回のWMOの報道発表はそれを確認したとするものである。
この報道発表では、観測史上最高の気温になったことに加え、18世紀後半から始まった産業革命の以前よりも、1.55℃高い気温とわざわざ断っている。これは、2015年に開催された気候変動枠組条約に関する第21回締約国会議(UNFCCC-COP21)で決めた、いわゆる「パリ協定」の努力目標1.5℃を、暦年(calendar year)で初めて超えた年となったことを意識してのことである。
もっとも、パリ協定の努力目標である1.5℃や、目標の2℃という値は、長期平均での話であるので、単に1年間超えたから目標が守られなかったということを意味しないが、2024年が一つの区切りの年になったことは間違いない。
実際、英国放送協会(BBC)も同日、WMOの報道発表を受けて「2024 first year to pass 1.5C global warming limit(2024年は地球温暖化の抑制目標である1.5℃を超えた最初の年)」と題する記事を配信した(参考URL-3)。
さて、温暖化は加速してるとも言われるが、2023年や2024年の高温はそれ以前に比べ、あたかも気温がジャンプしたかのように顕著な高温の2年となった。この理由として、2023年4月から2024年4月までの13か月間持続したエルニーニョ(El Niño)が関係していることが指摘されている。
エルニーニョとは、通常は西太平洋赤道域に蓄積されている28℃以上の水温を持つ暖水が、東風である貿易風の弱まりとともに太平洋赤道域の中央部から東部へと移動する現象である。その結果、太平洋赤道域のほとんどが暖水で覆われることになる。そのため、その暖水で覆われた海域の大気は、この暖水に温められるので高温となり、これが世界平均気温にも影響し、年平均気温で0.1℃から0.2℃高めると見積もられている。実際、これまで最高気温を更新した1998年や2016年はエルニーニョが発生していた年であった。
このエルニーニョは、長期にわたり平均すれば4年に一度起こる現象であるが、太平洋や大西洋には、もっと時間スケールの長い、数十年規模で大気と海洋が連動した変動があることが知られている。この現象は、太平洋では「太平洋十年規模変動(Pacific Decadal Oscillation: PDO)」と呼ばれている。
PDOは、太平洋中緯度域と赤道域などの周辺の海域の水温が、シーソーのように反対符号の偏差が出現する現象である。この正から負、負から正への遷移は極めて短時間で起こるので、この遷移を気候のジャンプ(climate jump)あるいはレジームシフト(regime shift)と呼ばれてきた。
世界平均気温の変化は、大気中の二酸化炭素濃度の増加曲線(キーリング曲線)のように単純に右肩上がりでなく、年々の変動、エルニーニョやその反対の現象であるラニーニャ(La Niña)に伴う数年周期の変動、そして急激な遷移を伴う数十年規模の変動、そして温暖化の信号が重なり合ったものである。世界平均気温の変動が、大気中の二酸化炭素の濃度変動と同じではないではないか、と指摘する向きもあるが、一致しない理由は、ここで述べたような自然界が持つ固有の変動(自然振動: natural oscillation)が存在するからである。
史上最大と言われた1997/98年エルニーニョの後、2000年代に入ると世界平均気温の上昇が鈍り、ほぼ停滞するような状況が約10年間続いた。この状態を中断や停滞を意味する英語である「ハイエイタス(hiatus)」と呼ばれている。その原因は現在、南極周辺の海洋が大気の熱を吸収・蓄積したため、気温の顕著な上昇が抑えられたと考えられている。
ここで述べてきたように、様々な周期の自然振動もある中、2023・24年の著しい気温上昇が今後も継続するのかどうかは不明である。その意味で今年、2025年の気温の動向が注目される。
【参考URL】
1. WMOによる1月10日付報道発表
https://wmo.int/media/news/wmo-confirms-2024-warmest-year-record-about-155degc-above-pre-industrial-level
2.C3Sによる2024年11月7日付報道発表
https://climate.copernicus.eu/year-2024-set-end-warmest-record
3.BBCによる1月10日付配信記事
https://www.bbc.com/news/articles/cd7575x8yq5o