海洋瑣談(No.18、2025年11月15日)
先月(2025年10月)31日(金)、内閣府政府広報室は「『気候変動に関する世論調査』(速報)」を公表した(参考URL-1)。地球温暖化関連の調査で、調査の名称はいろいろと変遷したが、2007年以来不定期に行われてきた。この一連の調査は今回が9回目であり、前回は2023年であった。なお、「速報」とついているのは回答締め切り日である10月19日を待たずに、10月10日の時点で集計しているためで、最終報告は来年1月末になされる予定である。
アンケート対象者は日本に住む18歳以上の3000人で、9月から10月にかけての2週間でアンケート用紙を郵送し、回答は郵送またはインターネットとした。速報段階での回収数は1766人で、回収率は58.9%であった。
アンケートは、「1 気候変動問題について」「2 脱炭素社会について」「3 気候変動影響について」「4 気候変動適応について」「5 熱中症予防について」の5項目で行われた。
「1 気候変動問題について」の最初の「問1」は「地球環境問題について」で、「気候変動が引き起こす問題に関心がありますか」との質問であった。「関心がある」や「ある程度関心がある」を回答した人は91.7%に及び、前回2023年の89.4%を上回る結果となった。日本は、前例のない猛暑を3年連続して経験していることなどが反映してのことであろう。
次の「問2」は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の評価報告書の認知度についてである。以下にその質問項目の全文を示す。
「国際連合によって設置されたIPCCという政府間の組織は、1990年から5~7年ごとに気候変動に関する評価報告書を公表しています。あなたは、最新の同報告書において、初めて、人間の活動が地球を温暖化させてきたと断定する見解が示されたことを知っていますか。」
回答は「知っている」と「知らない」の2択であった。結果は「知っている」が34.8%、「知らない」が64.4%であった。無回答の人は0.7%である。私はこの低い数値に大いに驚いてしまった。2023年に公表されたIPCC第6次評価報告書(AR6)で、問2の文章にあるように、現在進行中の温暖化は人間活動に起因すると断定された、が大々的に報道されたので、多くの人が知っていると思っていたのである。この34.8%という数値は、2023年の調査結果である42.3%よりも8%も低かった。これは、前回の調査はAR6が公表された直後の調査だったことを反映していると考えられる。
次の問いは、「知っている」と回答した人に対する、このIPCC評価報告書の情報の入手経路についてである。複数の選択肢を回答できる設問であり、「テレビ・ラジオ」を回答した人が85.5%、「新聞・雑誌・本」が51.2%であった。以下、「SNS」「地方公共団体のポスターなど」「民間企業のポスターなど」「学校などの教育機関」「環境省のホームページ、パンフレットなど」が続くが、いずれも10%かそれ以下の低い値であった。すなわち、「テレビ・ラジオ」や「新聞・雑誌・本」で知った人がダントツであり、他の手段はマイナーなのである。なお、2023年は上位2つの手段がさらに高い値であり、一方、「SNS」以下の手段はさらに低い値であった。テレビやラジオ、そして新聞などのマスメディアが圧倒的な情報伝達手段であるが、近年はSNSなども情報伝達効果を持ち始めていることを示している。
次の項目の「2 脱炭素社会について」では、脱炭素社会に向けた取組の問い(問4)が全員に対してなされた。以下にその質問項目の全文を示す。
「『脱炭素社会』とは、人間の活動による温室効果ガスの排出量と森林などによる吸収量が等しくなり、排出実質ゼロとなる社会をいいます。あなたは、『脱炭素社会』の実現に向け、一人一人が二酸化炭素などの排出を減らす取組について、どのようにお考えですか。」
回答は4択の中から、「積極的に取り組みたい」(25.7%)や「ある程度取り組みたい」(63.6%)を選択した人は89.2%に達した。一方、「あまり取り組みたくない」(8.4%)や「全く取り組みたくない」(1.4%)を選択した人は9.7%であった。なお、無回答の人は1.0%であった。
以下、問5では取り組みたくない理由を、問6では日常的に現在行っている取組を聞いているのだが、これらの回答結果については省略する。
さて、先のIPCCが温暖化は人為起源と断定したことを知っている人が3人に1人程度であったが、脱炭素の取り組みには10人中9人が取り組みたいと回答していることには、胸を撫でおろした。しかしながら、問2と問4の回答結果に若干違和感を持つ。「温暖化は、人間活動で放出している化石燃料起源の二酸化炭素などの温室効果ガスに起因している」という最新の科学的見解は知らない(問2結果)が、脱炭素の取組はしたい(問4結果)と読めるからである。
おそらくこの解釈は間違いで、ほとんどの人は現在進行中の温暖化は温室効果気体の大気中濃度が高くなっていることに起因していることを認識しているに違いない。それゆえ、「脱炭素社会」に向けた取組に賛同しているのであろう。
では、問2で知っているとの回答が少ないのはなぜだろうか。私は、回答者が問いかけ文章を厳密に解釈し、①IPCCなる組織が存在し、②その最新の報告書で、③初めて、④人間の活動が地球を温暖化させてきたと断定する見解が示された、を知っているかどうかを問われた、と解釈したのだと思う。すなわち、①から④までのすべてに自信をもってそうだと思わなければ、この問いに対する回答は「知らない」となってしまう。
その意味で、問2の「知っている」と回答した人が少なかったことには、そう驚かなくともいいのかもしれない。問いかけの文章をシンプルに「『現在の温暖化は人間の活動に起因している』という最新の科学的見解を知っていますか」としたらどうだろう、ほとんどの回答者が、「知っている」と回答するのではなかろうか。私自身は、この調査の文脈からすると、IPCCの報告書云々ではなく、このような問いかけが妥当だったのではないかと思っている。
さて、地球温暖化や気候変動については、他の国々に比べて日本(人)の取組は積極的でない、との国際的世論調査組織「Ipsos(イプソス)」による最近の調査結果がある(参考URL-2)。日本の気候変動対策に対する取組意識(積極さ)は、調査対象32か国中最低クラスである、と読める結果である。電力エネルギーの化石燃料依存度が高いなど、確かに脱炭素社会実現に向けての課題も多いが、それでも努力の結果、一人当たりの排出量は減少傾向である。アンケート調査は個々人の意識を問う調査であるので、そこに謙虚さを好む「日本人らしさ」が出てしまっている可能性はないのだろうか。アンケート調査結果の解釈にも注意が必要なのかもしれない。
【参考URL】