海洋瑣談(No.20、2026年1月15日)
気象庁は先月(2025年12月)24日に、「2025年(令和7年)の天候のまとめ(速報)」と題する報道発表を行った(参考URL-1)。2025年11月までの資料を用いた結果であるが、12月の天候で大きく変わることはないので、今後公表される最終報告でも結論は同じとみてよい。
公表された資料によると、日本の2025年の平均気温は、1991年から2020年までの30年間平均値からの偏差で+1.25℃で、この値は2024年の+1.48℃、2023年の+1.29℃に次ぐ、1898年(明治31年)に統計を開始して以来第3位の高温であった。ちなみに第4位は2020年の+0.65℃、第5位は2019年の+0.62℃である。
一方、世界の2025年の平均気温は、1991年から2020年までの30年間平均値からの偏差で+0.48℃で、この値は2024年の+0.63℃、2023年の+0.54℃に次ぐ、1891年(明治24年)の統計開始以来第3位の高温であった。ちなみに第4位は2016年の+0.35℃、第5位は2020年の+0.34℃である。世界平均気温も2023年、2024年、2025年の3年が、過去最高の3年間であったことは日本の状況と同じである。
さて、気象庁の報道発表で示された日本の平均気温の毎年の変化の図(報道発表資料の図1)や、世界の年平均気温の毎年の変化の図(図2)を見ると、年々の短い変動に加え、長い周期の変動や階段状の変化、そして全体として右肩上がりの変化があることがわかる。大局的に見ればこの右肩上がりの変化が人為的要因による温暖化の信号である。
この人為的な温暖化の信号に、自然の持っている機構(仕組み)による振動(自然振動: natural oscillation)が重なっているのである。短い周期では周期数年のエルニーニョやラニーニャによる変動(El Nino/Southern Oscillation: ENSO)などが、より長い周期では太平洋十年規模振動(Pacific Decadal Oscillation: PDO)などがある。
さて、この報道発表資料に接し、私には二つの疑問が出てきた。一つは、2022年~2023年の間でレジームシフトが起こったのではとの疑問であり、もう一つは、日本付近の温暖化が他の地域よりもなぜ2倍強も大きいのかという疑問(というよりはその要因)である。
まず、レジームシフトの発生のことである。前述のように、2023年からの3年間は、日本の平均気温も世界の平均気温も、それまでの気温よりも突出して高い気温となった。すなわち、階段状の変化をしたと捉えることができる。一般には「2023年から2024年はエルニーニョが発生したため高温となる変化となったのではないか」と考えられてきたが、エルニーニョが終焉している2025年も高温となったので、「2023年以降は異なる気候状態となった」、すなわち、レジームシフトが発生したと考えられないだろうか。
この2022年から2023年にかけてレジームシフトが発生したかどうかを断定するためには気温のみの時系列からでは不十分で、大気や海洋の状態に対する丁寧な解析を必要とする。多大な労力も時間もかかるが、その研究の意義は十分にあろう。
次に、日本付近の温暖化の上昇率が大きいことの要因についてである。ここ3年間の日本の平均気温の偏差と世界の平均気温の偏差を改めて記すと以下のようになる。2023年は1.29℃(日本)と0.54℃(世界)、2024年は1.48℃と0.63℃、2025年は1.25℃と0.48℃。すなわち、同じ期間を基準とした偏差であるが、日本の気温偏差が世界の気温偏差よりも2倍強も大きいのである。
このこと自体は、以前からわかっていたことではある。文部科学省及び気象庁(2025)による『日本の気候変動2025-大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書-』(本編、参考URL-2)では、「地球温暖化に伴う気温の上昇は、海域よりも陸域で大きくなりやすい。 日本は周囲を海に囲まれてはいるが、北半球の中緯度域全体でみれば陸域が多いことから、陸域の高温が大きく影響し、日本の平均気温の上昇率は世界平均よりも高いと考えられる」と述べられている(同書30ページのコラム【参考】日本の気温上昇が世界平均よりも大きいのはなぜか?)。
この具体的メカニズムとして、陸域での地面からの熱の移動は潜熱(水の蒸発に伴う熱の移動のこと)が抑制されるため、顕熱(熱伝導による熱の移動のこと)が大きくならなければいけないことから、地面温度の上昇とともに気温も上昇することを上げている。さらに、温暖化による陸域にかかる雲の減少に伴い、日射が増加することも気温上昇の一因であろうことも示唆している。
このメカニズムに加え、私には日本周辺の海面水温の効果も大きいものと考えている。なお、ここで日本近海とは、東シナ海・日本海・オホーツク海と、日本沿岸からおおよそ数百キロメートル沖合までの太平洋を指す。この海域の海面水温も温暖化に伴い上昇しており、その大きさは世界の海面水温の上昇率のおよそ2倍強となっているのである(参考URL-2、56~59ページ)。実際、同書図4-1.4(29ページ)によれば、資料のあるここ100年ほどの日本の平均気温偏差と日本周辺の海面水温偏差は、極めてよく一致した変動をしているのである。
今回の速報でも、日本近海の2025年の海面水温偏差は+0.96℃で、統計を開始した1908年(明治41年)以降、2024年(1位)、2023年(2位)に次いで第3位の高温となる見込みであることが述べられている。
大気は熱容量(蓄えることのできる熱の量)が小さいため、異なる温度の海水に接すると、すぐにその温度になじんでしまう性質がある。そのため、日本は海に囲まれているので、周辺の海面水温になじみながら日本に到達する。もちろん、すっかり同じ温度になって日本上空を吹くわけではないが。
ではこの海面水温はどのように決まるのだろうか。海面を通しての大気との熱のやり取り(大気の影響、あるいは大気との相互作用)と、海洋内の熱の移動や拡散、すなわち、海洋内の熱の分配によって決まる。とりわけ日本周辺域は、南方より多量の暖水を輸送している黒潮が流れる海域であり、さらに黒潮の南側は表層からより深い層へ水が押し込まれる海域である(その一例は黒潮続流域で形成される北太平洋亜熱帯モード水)。
日本周辺の温暖化による昇温率が他の地域よりも大きいのは、上記のように、大気の役割とともに、海洋の果たす役割も大きいものがあると考えている。日本の気温の昇温率の大きさに及ぼす海洋の役割を、きちんと定量的に評価することも重要な課題としてあるのではなかろうか。
【参考URL】