海の杜(No.2、2024年7月1日)
前回に続いてWPI (世界トップレベル研究拠点プログラム)事業の説明です。WPIは、2007(平成19)年度に4つのミッションを持つ事業として始まりましたが、2020(令和2)年に3つのミッションに整理されました。同時にそれぞれのミッションの方向性と、達成を評価するための指標の例が明示されました。学振 (日本学術振興会)のウェブサイトには、これを記した「新ミッションと評価の観点」のPDFファイルがあります(末尾にURLを記します)。これを見るとWPI事業の目的がよりはっきりしますので、今回はそれを紹介します。
まず、ミッション1は、「世界を先導する卓越研究と国際的地位の確立」です。方向性として、①世界最高水準の研究成果、②分野融合性と多様性による学問の最先端の開拓、の2つが挙げられています。この目標がどれだけ達成されたのかは、「評価の観点例」に挙げられたもの、すなわち、研究(の社会や学術分野への)インパクト、ベンチマーク(基準とする)研究所との比較、(掲載された雑誌の)インパクトファクター、引用数(Top1%。Top10%)などで測れるのではないか、としています。
ミッション2は、「国際的な研究環境と組織改革」で、①研究力向上のための国際頭脳循環の達成、②分野や組織を越えた能力向上、③効果的・積極的かつ機動的な組織経営の3つの方向性が示されています。評価の観点例の3つ目に、「システム改革に対するホスト機関の努力」が挙げられており、WPI事業は直接事業を行う研究組織だけではなく、機関全体の改革まで見据えていることが分かります。
ミッション3は、「次代を先導する価値創造」で、①基礎研究の社会的意義・価値、②次代の人材育成:高等教育段階からその後の職業人生まで、③内製化を見据えた拠点運営、拠点形成後の持続的発展の3つの方向性が挙げられています。評価の観点例の1つ目には、「社会科学および自然科学の社会的インパクト」が挙げられており、WPI事業で行われている科学的活動が、社会へどのような影響を与えたのかを問題にしています。なお、方向性③に「内製化」(self-sufficient)とありますが、これは支援が無くなった後でも、同じように事業が続けられる状態になることです。別の言葉では、「自走する」、あるいは「自立する」状態のことです。
WPI事業は2007年度から始まりましたので、今年は18年目の年度となります。競争的資金の事業の多くは短いものですが、このように長く続く事業は大変珍しいと言えます。それだけ期待の大きな事業とも言えますし、先行した事業が期待に叶う成果を上げてきたから、とも言えるでしょう。
【参考URL】
1.日本学術振興会ウェブサイトのWPI「新ミッションと評価の観点例」のPDFフィル
https://www.jsps.go.jp/file/storage/general/j-toplevel/data/11_gaiyo/mission_j.pdf