コラム

海の杜(No.16、2025年9月1日)

AIMECグランドチャレンジ-その2 歴史的経緯と意味

  「グランドチャレンジ(Grand Challenge: GC)」が使われだした経緯と意味を、私が調べた範囲で紹介します。

 最初に使われたのは1987年11月に公表された米国大統領府科学技術政策室科学・工学・技術に関する連邦調整評議会の報告書「A Research and Development Strategy for High Performance Computing(高性能計算技術に関する研究・開発戦略)」の中でと言われています(参考URL-1。報告書は参考URL-2)。この文書では、GCsは新しい概念の言葉であることを示すため、多くのところで二重引用符「“ ”」が付けられています。

 同評議会はさらに、1992年会計年度予算補足説明書「Grand Challenges: High Performance Computing and Communications(GCs:高性能計算技術と通信)」を公表します(通称「Blue Book」。参考URL-3)。この中で、開発目標とする電子計算機の性能とそれを用いた計算科学分野の意欲的な課題を公表しました。

 Blue BookではGCを次のように定義します。「A Grand Challenge is a fundamental problem in science and engineering, with broad economic and scientific impact, whose solution could be advanced by applying high performance computing techniques and resources.(グランドチャレンジとは、その解決には高性能計算技術と資源の適用が有効であり、広範な経済的・科学的影響を与える、科学と工学における根源的な課題のことである。)」なお、GCsの一般的な定義では、下線部は必要ないですね。

 Blue Bookには、各省庁が設定したGCsも述べられています。海洋大気庁(NOAA)は極端気象イベントの予測技術や、航空宇宙局(NASA)は飛行体設計計算技術の確立などをGCsとして掲げました。

 このGCの考え方が次第に各方面に広がっていきます。世界気候研究プログラム(WCRP)では、2013年から2022年までの10年間、7つのGCsを制定し活動を行いました(参考URL-4)。また、米国や英国の多くの大学でも独自のGCsを制定し、学内の学術分野を横断する多様な研究者を動員し、未来社会に影響を与える重要課題について研究活動を行っています(例えば、参考URL-5・6)

 繰り返しですが、GCsは、単に学術分野の大きな挑戦的課題という意味にとどまらず、その解決が私たちの未来社会を変革するような、社会に資する大胆で意欲的な課題がグランドチャレンジなのです。

ページトップへ