海の杜(No.18、2025年11月1日)
今回から5回にわたり、「EarthArXiv(アースアーカイブ)」に掲載されたAIMEC-GCsに関する文書(参考URL-1)を基に、5つのAIMEC-GCsについて紹介します。今回は「GC-1 海洋生態系の物理化学的要因に対する適応性と脆弱性の解明」です。この項目は次のように説明されています(参考URL-2)。
「現在、海洋生態系は、海洋温暖化、酸性化、脱(貧)酸素化、栄養塩バランスの崩壊など、多様な物理化学的ストレスに直面しています。WPI-AIMECは、海洋生物のさまざまな階層における適応性と脆弱性を支配する、物理学的・化学的・生態学的メカニズムの解明に取り組み、海洋生態系の応答や機能変化を評価・予測する新たな指標の開発につなげます。この課題を解き明かすことは、生物多様性の保全、沿岸コミュニティの保護、そして持続可能な未来に向けたネイチャー・ポジティブな意思決定に役立ちます。」
ここで、「酸性化」とは二酸化炭素が海水に溶け込むことにより海水のpH(水素イオン濃度指数)が低下する(酸性に近づく)ことを指し、温暖化と同時進行している現象です。また、貧酸素化とは、温暖化で海洋の表層がより温められる結果、成層(密度の鉛直分布)が強まって海水の鉛直混合が弱まり、酸素が表層から下層へ十分に供給されなくなるために海水の酸素濃度が低下することです。
最後の行の「ネイチャーポジティブ」とは、近年提唱されている概念で、日本では「自然再興」と訳されています(参考URL-3)。その意味は、「自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させること」です。現在、日本でも世界的にも、この概念の下で様々な施策が採られ活動が進められています。
このGC-1では、3つの特定課題(Specific challenges)、16の主要問題(Key questions)、7つの取組方法(Approaches)が設定されました。3つの特定課題とは、1)気候変化下での海洋生物の移動と収縮の解明、2)海洋酸性化と貧酸素化での海洋生態系の機能と生存戦略の解明、3)海洋生態系における海洋熱波の影響の解明です。ここで海洋熱波(marine heat wave)とは、海面水温が平年値よりも相当程度高いまま一定期間以上継続するイベントで、海洋生態系に及ぼす影響が大きいのではないかと、近年注目されている現象です。
GC-1の達成には、海洋の環境と生態系双方の変動と変化の実態を把握し、両者の関連性と関係性を、定性的にも定量的にも解明することが求められているのです。
【参考URL】
1.「EarthArXiv」の掲載されたAIMEC-GCsについての文書(第2版、2025年8月21日掲載)
https://eartharxiv.org/repository/view/9810/2
2.AIMECウェブサイトニュース「WPI-AIMEC『グランドチャレンジ』を策定」(2025年8月22日掲載)
https://wpi-aimec.jp/news/2624/
3.環境省のネイチャーポジティブに関するウェブサイト「エコジン」
https://www.env.go.jp/guide/info/ecojin/eye/20240214.html