コラム

海の杜(No.23、2026年4月1日)

用語解説(1):はじめに

 学術分野の文章には日常的には使われることのない学術用語(academic term)あるいは専門用語(technical term)が用いられます。これらの用語はその分野の研究者集団では説明なしに使われますが、専門が異なると研究者でも、ましてや一般の人には理解できないものになってしまいます。したがって、多くの人に読んでもらう文章ではできるだけ使わないようにし、使用する場合でも説明を加えて使うことになります。

 研究成果を含めAIMECの活動を紹介する文章には、多くの学術用語が使われています。このコラムでもレジームシフト、環境DNA、アースシステムモデルなど、重要な用語は説明してきましたが、これから何回かにわたり、AIMECに関連する学術用語を紹介することにします。

 さて、本稿では、「エルニーニョ」の対となる現象に「ラニーニャ」という用語が導入された経緯を紹介します。通常、太平洋赤道域は東風の貿易風により、西側は暖水の蓄積により高水温となり、東側は冷たい深層水の湧昇(湧き上がること)により低水温となっています。ところが12月から2月ころまで貿易風が弱まるため、東側の海域では湧昇がやむことになり高水温となります。この季節的な現象をペルーの漁民たちはエルニーニョ(El Niño:英語ではThe boy:幼子イエスキリストのこと)と呼びました。

 気象や海洋の研究の進展とともに、数年おきにエルニーニョの状態が半年から1年、それ以上の期間続く現象があることが分かりました。研究者はこれをエルニーニョと呼ぶようになりました。さらに反対に、貿易風がいっそう強まり、西側で暖水がさらに蓄積するためより高水温となり、東側で湧昇がさらに強まるためより低水温となる現象も起こることも分かってきました。

 では、この後者の現象を何と呼べばよいのでしょう。研究者は当初、anti-El Niño(反対エルニーニョ)と呼びました。しかし、反キリスト教のようで好ましくないとされました。そこでエルビエホ(El Viejo:The old man:老人)と呼ぶ人たちもいましたが、米国の研究者S.G.H. Philanderが、現在一般的に使われているラニーニャ(La Niña:The girl:女の子)の名称を提案したのです(参考文献-1)。エルニーニョと対になる用語としては、確かにエルビエホよりはラニーニャが適切な名称ではないでしょうか。

 研究者は新概念や新発見の現象に対して新しい用語を与えますが、多くの人が納得する対象の本質を突いた適切なものでなければならないのはいうまでもありません。

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