海の杜(No.25、2026年6月1日)
ある海域では海洋が大気の二酸化炭素(CO2)を吸収したり、ある海域では海洋が大気へとCO2を放出したりしています。吸収や放出は、大気と海洋のCO2分圧(CO2成分のみの圧力)の大小で決まり、分圧の大きい方から小さい方へと移動します。産業革命以降、大気中にCO2が蓄積された結果、大気のCO2分圧が次第に大きくなり、地球全体で正味(差し引き)海洋がCO2を吸収するようになりました。最新の見積もりでは、2010年からの10年間で平均すると、大気中に放出されたCO2の20%~25%を海洋が吸収していると評価されています(IPCC-AR6、参考文献1)。
では、海水に溶け込んだCO2はどうなるのでしょうか。溶けたCO2は、その一部が水分子(H2O)と反応し炭酸(H2CO3)になります。このH2CO3の一部は解離して炭酸水素イオン(HCO3-)と水素イオン(H+)になります。この過程で生成されたH+の一部は、海水中に存在している炭酸イオン(CO32-)と反応しHCO3-となりますが、CO2が溶けたことで生成された全てのH+がこの反応で消費されることなく、一部が残ります。すなわち、大気からCO2が海水に溶けると、結果として正味H+が増加することになるのです。H+の増加はpH(ピーエイチ;水素イオン指数)が減少することです。海水のpHが減少しますので、海洋は酸性化(marine acidification)すると言えます。
現在の表層海水のpHは、海域によって異なりますが8.0~8.1(弱アルカリ性)です。産業革命以降0.1程度、既に減少したと評価されています。海水はCO2を吸収することで温暖化を抑制していますが、その反動として海洋は酸性化しているのです。
海洋がCO2を吸収することは、結果的に海水中のCO32-の「消費」も意味します。海水中には今はまだCO32-が豊富にありますが、炭酸カルシウム(CaCO3)を創る「原料」を消費することになります。そのため、海洋酸性化が進行すると、甲殻類やCaCO3を体の一部にしている生物(円石藻などの植物プランクトンやクリオネ(ハダカカメガイ)などの動物プランクトン)、そしてサンゴなどは生育しにくくなってしまいます。ひいては海洋の生態系全体に大きな影響を与えることが懸念されています。
AIMECの目的の一つは、この海洋酸性化が海洋生態系に与える影響を解明することです。沿岸域では河川からの淡水や栄養塩の供給に大きな変動があります。このため、pHの変動は外洋域よりかなり大きいことがわかってきました(参考URL-1)。AIMECは沿岸域から外洋域まで幅広く、海洋酸性化がもたらす海洋生態系への影響解明に取り組みます。
【参考文献】
1. IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 概要(ES)暫定訳(文部科学省及び気象庁)(2022年12月22日掲載)
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/IPCC_AR6_WGI_ES_JP.pdf
【参考URL】
1.国立研究開発法人水産研究・教育機構・他 報道発表「日本沿岸域の酸性化進行状況に関するモニタリング結果を公表」(2024年1月15日掲載)
https://www.fra.go.jp/home/kenkyushokai/press/pr2023/files/20240115_acidification.pdf