海の杜(No.26、2026年7月1日)
気象の分野では「熱波」や「寒波」という用語は古くから使われてきました。世界気象機関(WMO)による定義では、熱波とは「少なくとも2日間連続して続く、著しく異常に暑い天候の期間」であり、寒波とは「地表付近の気温が急激かつ大幅に低下し、少なくとも2日間連続して続く、著しく異常な寒さのこと」です(参考文献—1)。ここで、「著しく異常な」の数値上の閾値は、場所ごとに異なるとして一律には与えられていません。また、熱波は暖候期のみに、一方の寒波は寒候期のみに使われるのが特徴です。
気象に倣い、最近、海洋でも「海洋熱波(marine heatwaves:MHWs)」や「海洋寒波(marine cold spells:MCSs)」を使ようになりました。多くの研究者は、「水温が、30年間の基準期間に基づく統計で90(10)パーセンタイルを上回る(下回る)状態が、5日間以上継続する異常高温(低温)現象」をMHWs(MCSs)と呼んでいます(海洋瑣談、No.16を参照のこと:参考URL-1。参考文献-2)。気象の熱波や寒波とは異なり、全季節を通して、上記の定義を満たせばMHWsやMCSsが発生したとみなします。
MHWsは、長く続く好天で海洋が過熱されたり、通常冷水で占めている海域に暖水が浸入したりすることで発生します。MHWsが発生すると植物・動物プランクトンや、海草・海藻が死滅したり、サンゴでは28℃を長期間超えると白化現象が生じたりします。白化現象とは、サンゴに共生する単細胞植物の褐虫藻が高温ストレスで離脱するため、サンゴが白い骨格のみになる現象で、長期間続くとサンゴは死滅します。MHWsは、地球温暖化の進行で発生が増加していることが報告されています(例えば、参考文献—3)。
一方、MCSsは、長く続く強風下で海水が冷やされたり、風が岸と平行に吹く時、陸岸近くでは深層水が表面に湧き上がる湧昇現象などで起こります。MCSsが起こると同じように海洋生態系に大きな影響が出ます。MCSsは長期間の傾向で見ると減少しつつあるようです(参考文献—2)。
AIMECは北西太平洋域を中心として、MHWsやMCSsの発生状況に注視するとともに、その生態系への影響解明に注力していきます。
ところで、「海洋熱波」や「海洋寒波」なる用語に私はあまり感心していません。「波」という言葉が気になります。上述のように、発生する要因は多種多様です。異常高温(低温)現象(abnormally warm(cold)event)とか極端高温(低温)現象(extremely warm(cold)event)のような、単に状態を示す用語がいいのではないかと思っています。
【参考文献】
1. World Meteorological Organization、2023: Guidelines on the definition and characterization of extreme weather and climate events. WMO-No. 1310, 27pp.
https://library.wmo.int/viewer/58396/#page=1&viewer=picture&o=bookmark&n=0&q=
2.Schlegel, R.W., et al., 2021: Marine cold-spells. Prog. Oceanogr., 198(2021)102684.
https://doi.org/10.1016/j.pocean.2021.102684
3.Dong, T., et al., 2025: Record-breaking 2023 marine heatwaves. Science 389 (6758).
DOI:10.1126/science.adr0910
【参考URL】
1.海洋瑣談、No.16「日本の猛暑と海洋熱波」(2025年9月15日掲載)
https://wpi-aimec.jp/column/ocean_talk_16.html