コラム

海洋瑣談(No.2、2024年7月15日)

学術におけるイノベーション -融合研究の勧めー

 幾つかの班から構成される大型の研究プロジェクトでは、共同研究や連携研究、そして融合研究が推奨されている。WPI事業でも例外ではない。

 平成20(2008)年度に創設された「新学術領域研究」や、令和元(2018)年度に創設された「学術変革領域研究」では、その名の通り、新しい学問領域の開拓が目的の競争的資金である。以下、その趣旨を、新学術領域研究を紹介する日本学術振興会のウェブサイトから引用する(末尾にURLを記す)。なお、下線は筆者が付けた。

「学術研究では、研究者個々の自主性に基づき、独創性で多様性を確保することが重要ですが、あわせて、研究者相互のインタラクションに基づき、新たな学問領域を切り開いたり、若い研究者を育成していくことが重要です。このため、科研費では、『基盤研究』などにより個人型の研究をサポートするとともに、『新学術領域研究(研究領域提案型)』において、新たな研究領域を設定して異分野連携や共同研究、人材育成等を図る大規模なグループ研究をサポートしています(平成20年度に創設)。」

 大型研究では多くの研究者が参加することになる。そのメリットを活かし、異なる学問領域に所属する研究者が協力することにより、個人研究を超えた、そして一学問領域の研究を超えた、新たな視点・観点からの研究が生み出されることを期待している。すなわち、共同研究、連携研究、融合研究の薦めである。

 ところで、共同研究、連携研究、融合研究とは、いったいどんな研究を指すのだろうか。各人それぞれに定義を持っていると思うが、私は次のような定義をしておきたい。

<共同研究(collaborative research)>
同じ学問領域の複数の研究者が、それぞれ得意なところで協力して行う研究。

<連携研究(collaborative research or joint research)>
異なる学問領域の研究者が、それぞれの観点で協力して行う研究。

<融合研究(fusion research)>
異なる学問領域の研究者が、新たな観点で協力して行う研究。

 共同研究と連携研究の定義は納得してもらえると思えるが、問題は融合研究だろう。「新たな観点」と書いたが、修飾語を付ければ、「それぞれの学問領域の観点の単純な延長上にはない、まったく新しい観点」ということである。そのような融合研究の結果として、新しい学問領域が産まれてくる。

 まだ分かりにくいかもしれない。ここで例えばなしをしてみたい。Aという金属(学問領域)とBという金属があったとしよう。A金属(B金属)から複数のパーツを作り、組み合わせて一つの製品(研究成果)を作ったとする。この製品は、すなわち「共同研究」の成果とみなさせる。次にそれぞれの金属の特徴を活かし、A金属のパーツとB金属のパーツを組み合わせて一つの製品を作ったとする。とすると、この製品は「連携研究」の成果とみなすことができる。

 さらに、A金属とB金属をそのまま利用するのではなく、それらを混ぜ合わせて新たな合金Cを作り、製品作りに利用するものとする。合金CはA金属やB金属とは異なる特徴(特性)を持つので、その特性を活かしたパーツを作ることができる。そしてそれらを利用した製品を作ることができる。すなわち、これらの製品は「融合研究」の成果とみなすことができる。金属Aの世界(学問領域)や金属Bの世界(学問領域)とは全く異なる、新しい合金Cの世界(新学問領域)ができたことになる。

 繰り返しであるが、融合研究とは、上記のように新しい学問領域を開拓する可能性を持つ研究のこと、と私は考えている。

 さてさて、ここからが問題です。「学術研究にイノベーションを起こすには、融合研究はとても大事です、どんどん進めましょう」と言いたいのですが、「言うは易く、行うは難し」です。思い立ってすぐにできるものでは到底ありません。まずは共同研究、そして連携研究の促進からです。連携研究を進めるためにも、他分野の研究を知ることが大事です。そうですので、異なる分野の人たちとの意思の疎通、すなわちコミュニケーションを大いに進める必要があります。そのため、多くのWPI事業では、ティー・ミーティングなどと称して、毎日あるいは毎週、同じ時間帯に同じ場所に集まって懇談することが推奨されていたり、WPIによっては義務化されていたりします(末尾にURL)。WPI-AIMECもそのような仕組みを早く作りたいものです。

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