コラム

海洋瑣談(No.3、2024年8月15日)

ブルーカーボンとカーボンレインボー

 気象庁は8月1日(木)、「7月の記録的な気温と今後の見通しについて」と題する報道発表を行った(末尾にURLを記す)。この7月の平均気温は、統計を開始した1898(明治31)年以来、7月として最も高かった、とのことである。さらに8月も高温が予想されるとした。

 国内的にも国際的にもこのところ気温の記録更新が相次いでいる。世界平均の月平均気温も、ここ1年以上も前年同月を上回る状態となっている。まさに右肩上がりの気温上昇である。

 この主要因は、化石燃料の消費による大気中の二酸化炭素などの温室効果ガスの増加にあるとし、化石燃料消費の抑制や、陸上生態系や海洋生態系によるに二酸化炭素吸収の促進に向けた活動が叫ばれるようになってきた。その中で、海洋生態系の役割に期待が集まっている。

 2009年10月、国連環境計画(UNEP)は、「Blue Carbon: The Role of Healthy Oceans in Binding Carbon(ブルーカーボン:カーボン固定における健全な海の役割)」と題する報告書を公表した(末尾に参考文献を記す)。「ブルーカーボン」がこの報告書で初めて公的に定義され、使われたと言われている。

 従来、植物などの陸上生態系で固定された炭素は「グリーンカーボン」と呼ばれていた。「ブルーカーボン」とは、海洋生態系によって固定された炭素のことである。ここで主な海洋生態系として、海草(うみくさ)藻場、海藻(うみも)藻場、湿地・干潟、マングローブ林などの沿岸域の生態系が挙げられている。

 報告書によれば、海洋の面積のたった0.5%に過ぎない沿岸域の海洋生態系が、海洋が吸収する二酸化炭素の3分の1程度を吸収しているとの評価で、その役割に大きな期待がかけられている。しかしながら、沿岸域は急速に開発が進み海洋生態系が破壊されている場でもある。世界各国は、自国のブルーカーボンの精密な評価とともに、海洋生態系の保全に向けた活動を併せて行っている段階にある。

 ところで、この報告書では、さらに「ブラウンカーボン」「ブラックカーボン」なる用語も用いられた。ブラウンカーボンとは、化石燃料の燃焼に伴い放出される二酸化炭素などの温室効果気体を構成する炭素のことである。一方ブラックカーボンとは、同じ燃焼で形成されるものでも、煤(スス)などのエアロゾル(aerosole:微粒子)のことである。これら2つのカーボンは、グリーンカーボンやブルーカーボンと異なり、地球温暖化を加速する原因物質となる。

 さて、調べているうちに、最近さらに様々なカラーのカーボンが定義されていることを知った。米国地質調査所(U.S. Geological Survey:USGS)のウェブサイトの記事の「Colors of the Carbon Rainbow(炭素虹の色)」(2022年3月10日、アップロード)では、以下の8色が定義されていた。

Purple -Carbon captured through the air or industrial emissions

Blue -Carbon stored in ocean plants and sediments

Teal -Carbon stored in freshwater and wetland environments

Green -Carbon stored in terrestrial plants

Black -Carbon released through the burning of fossil fuels

Gray -Carbon released through industrial emissions

Brown -Carbon released by incomplete combustion of organic matter

Red -Carbon released through biological particles on snow and ice that reduce albedo

 ここで、グレイカーボン(grey carbon:灰)とは、産業製品・廃棄物からから放出される炭素のことで、レッドカーボン(red carbon:赤)とは、アルベド(太陽光に対する反射能)を低下させる雪や氷の上の生物学的粒子(微生物など)を通して放出される炭素のことである。また、パープルカーボン(purple carbon:紫)は、大気中から、あるいは産業廃棄物を通じて回収・貯蔵された炭素である。また、ティールカーボン(teal carbon:青緑)は、淡水および湿地環境に貯蔵された炭素のことで、グリーンカーボンとブルーカーボンの中間地点で貯蔵されたとの意味であろう。

 この記事の表題の下には、「Not all Carbon is the Same(すべてのカーボンが同じわけではない)」と記され、次のように解説している。「研究者は、対象としている炭素の存在場所、その機能や特徴に基づき、炭素循環における異なる立ち位置、あるいは役割をしている炭素を分類するため、カラーを用いる。こうすることで、従来の有機や無機の呼び名よりも、より分かりやすい(分類の)枠組みを作ることができる。」

 虹は日本では7色と言われているが、異なる認識を持つ国も多いと言われる。カーボンは多くの異なる立場と役割があるので、すなわち、多くの色を与えることができるので、USGSはこのような状態を「炭素の虹=カーボンレインボー」と呼んだのであろう。

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