コラム

海洋瑣談(No.11、2025年4月15日)

『日本の気候変動2025』の公表

 3月26日(水)、文部科学省と気象庁は『日本の気候変動2025-大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書-』(以下、気候変動2025)の公表に際し、気象庁で報道発表を行った。2020年に気候変動2020を公表して以来、今回で2回目の報告書公表となる(参考URL-1)

 日本では2018年4月に「気候変動適応法」が施行された。この法律の下で、政府は「気候変動適応計画」を策定することとなっている。そのため、以下に示す気候変動適応法の第十条に規定されているように、環境省が計画策定に資する気候変動の影響に関する総合評価報告書を作成することになっている。

(気候変動影響の評価)
第十条 環境大臣は、気候変動及び多様な分野における気候変動影響の観測、監視、予測及び評価に関する最新の科学的知見を踏まえ、おおむね五年ごとに、中央環境審議会の意見を聴いて、気候変動影響の総合的な評価についての報告書を作成し、これを公表しなければならない。

 文中「気候変動及び多様な分野における気候変動影響の観測、監視、予測及び評価に関する最新の科学的知見」を与えるのが、前回の気候変動2020や今回の気候変動2025である。この条項の中に「おおむね五年ごと」とあるので、環境大臣が作る報告書も、それに資する資料としての気候変動2020や気候変動2025も、おおむね5年ごとに作成されることになる。

 地球温暖化に関しては、国連の一組織として「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が1988年に設置され、5年から7年おきに評価報告書を公表してきた。IPCCには3つのワーキンググループ(WG:作業部会)が設置されているが、地球温暖化の自然科学的根拠を、すなわち、地球温暖化の現状を分析し、将来を予測することがWG1の所掌となる。

 文部科学省と気象庁による今回の報告書は、日本版「IPCC-WG1評価報告書」と呼べるものである。報告書では、気温、降水量など9項目にわたり、観測結果の分析を報告するとともに、21世紀末で2℃と4℃昇温するシナリオの下で、日本の気候が将来どのような変化となるのかを述べている。

 今回公表された資料は、(1)本編(90ページ)、(2)詳細編(392ページ)、(3)概要(スライド25枚)、(4)都道府県別リーフレット(各4ぺージ)の4種類からなる。また、図面や表のファイルも別途ダウンロードできるようになっている(参考URL-2)

 前回よりも今回の報告書では、熱波や豪雨などの極端現象(extreme event)が、地球温暖化とともにどのように変化していくのかに焦点を当てて分析されているのが特徴である。例えば、気温に関しては、工業化以前(産業革命以前)では100年に1回しか起こらない現象も、2℃昇温のシナリオでは今世紀末には100年に67回、4℃シナリオでは今世紀末までには100年に99回も発生する現象となる、などの予想である。

 今回の報告書作成にあたり、執筆にあたられた気象庁・気象研究所の皆さん、査読にあたられた「気候変動に関する懇談会」や「同評価検討部会」の委員の皆さん、そしてこの作業の指揮をとられた気象庁大気海洋部気象リスク対策課気候変動対策推進室長のKさんや気象リスク対策官のOさんをはじめとする皆さんに、厚く感謝の意を表する。

 さて、3月26日(水)に行われた報道発表時に、私は文部科学省と気象庁が設置する「気候変動に関する懇談会」の会長としてコメントを発表した。文字数にして1500字程度(時間的にはおよそ5分間)である。このコメントの最後に、日本では気候科学への信頼度が低いという調査結果があるので信頼度を挙げるためにも、教育現場でこれらの資料が使われることを期待する、との発言を行った。以下、発言メモを引用する。

 「最後に、私のもう一つの期待の一端を述べさせていただきます。スイスの非営利組織に『世界経済フォーラム(WEF)』があります。毎年1月ごろ、スイスのダボスで年次総会を開いています。通称、『ダボス会議』と言われているものです。今から5年前の2020年に開催されたダボス会議で、『気候科学への信頼度』という調査結果が公表されました(参考URL-3)

 世界30か国の約1万人へのアンケート結果です。気候に関する科学を『非常に信頼する』と『信頼する』と回答した人の割合ですが、30か国中、最も高い国がインドで86%だそうです。以下、バングラデッシュ(78%)、パキスタン(70%)と続きます。一方、逆に最も低い国はロシアで23%、続いて日本(25%)、そしてウクライナ(33%)、アメリカ(45%)だそうです。

 この報告のことを知り、私は大きなショックを受けてしまいました。日本人は人一倍、天気や天候を気にする国民であり、気候にも大きな関心を持っている国民だろうと思っていました。それなのにこの結果はどうしてだろうと考えてしまいます。

 今回公表した『日本の気候変動2025』は、誰もが使いやすいように編集がなされています。そこで、小学校・中学校・高校、そして大学などの教育現場などでこれらの資料が使われて、結果的に日本人の『気候リテラシーの向上』が図られ、さらには気候科学への信頼度の向上がなされることを、個人的には大いに期待したいと思っています。」

 今回の報告書を広く使ってもらうために、気象庁ではYouTubeで見られる5~6分の長さの解説動画も配信している。現在(2025年4月)、「地球温暖化と将来予測」「気温」「降水」「海洋」の4本が用意されている。気象キャスターと気象庁の職員がそれぞれの項目を分かりやすく解説しているので、報告書と合わせて利用していただきたい。

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