海洋瑣談(No.22、2026年3月15日)
先月(2026年2月)6日(金)から22日(日)まで、イタリアで開催された第25回ミラノ・コルティナ冬季オリンピックにおいて、日本選手団は金メダル5個、銀メダル7個、銅メダル12個を獲得する大活躍を見せた。総数24個という獲得メダルの数は、過去最高とのことである。選手たちの演技は皆素晴らしく、日本人はもちろんのこと世界中の人々を魅了したに違いない。
今月6日(金)から15(日)には、同じ地域で冬季パラリンピックも開催される。パラリンピックはオリンピックから1か月後に開催されるのが通例なのだそうだ。この大会でも日本人選手は大いに活躍してほしいものである。
ところで、将来の冬季オリンピック・パラリンピックのことである。これについてもこの間いろんな報道がなされている。すなわち、地球温暖化が進む中で、これまでと同様の開催ができるのであろうかと。
国際オリンピック協会(IOC)は、2024年7月24日の総会で、2030年の冬季オリンピックはフランスのアルプス地域で、2034年の大会は米国のソルトレイクシティーで開催することを決めた。実現すると、フランスでは4回目、米国では5回目の開催となる。この決定は本来ならば2023年中に行われるはずだったが、温暖化が進行している中で実際に開催が可能なのかを調査する時間を確保するため、決定を1年延ばしたのだそうだ(参考URL-1)。
IOCは、オーストリア・インスブルック大学のR. Steiger博士や、カナダ・ウォータールー大学のD. Scott博士らに依頼し、温暖化が進行している中で、将来開催が可能かどうかの調査を依頼した。その結果が2024年に論文として公表された(雑誌への印刷は2025年。参考文献-1)。
この論文によると、もっともらしい温暖化シナリオ(IPCC報告書でRCP4.5あるいはSSP2-45と呼ばれているシナリオ:中間的な予測シナリオで、21世紀末までに平均約1.8°C(1.1〜2.6°C)の気温上昇となるもの)では、これまで開催可能な93か所の候補地が2050年代に52か所に、2080年代には46か所に減少すると評価された。一方、3月に行われるパラリンピックは、2050年代で22か所に、2080年代では16か所のみになると評価された。なお、開催可能な地域でも、人工雪の必要性はますます高まるという。
ところで、この論文は開催ができなくなることを危ぶんでいるというよりは、むしろ今後も存続できることを強調して述べている。実際、本論文要旨の最後の文章で以下のように記す。「even with a diminished pool of potential host locations, with continued adaptation, the OWG-PWG can endure as a genuinely global celebration of sport.(開催可能な候補地が減少したとしても、継続的な適応策を講じることで、オリンピックやパラリンピックはスポーツの真に世界的な祭典として存続できる。)」
一方、今年1月に公表された世界経済フォーラムの報告書「Sports for People and Planet」(参考文献—2)によれば、2040年までに冬季オリンピックを開催できる国は、たった10か国に減ってしまうだろうとしている。ただし、報告書にはこの結果だけが記されているのみで、何を根拠にこう判断したのかは示されていなかった。
気候に関する科学的データを分析し、その結果を社会に伝える活動を行っている米国の非営利団体(NPO)であるクライメイト・セントラル(Climate Central)も、この1月、「Milano Cortina 2026: Warming Winter Olympics(ミラノ・コルティナ2026:温暖化する冬季オリンピック)」と題する報告を出している(参考URL-1)。
この報告によると、1956年にコルティナで開催された前回の冬季オリンピックから70年後の今年2月の平均気温は、3.6℃も高くなっていること、コルティナで氷点下になる日が41日も短くなっているのだという。2月の平均積雪深も、1971年から2019年の間に15センチメートルも減少しており、今回の大会では約300万立方メートルの人工雪が必要であろうと予想されているのだそうだ。
いずれの報告でも、このまま温暖化が進行すると、開催地域は限られ、開催するにしても大量の人工雪などが必要になってくるだろうとの見立てである。そのため、IOCでは冬季オリンピックとパラリンピックを1か月早め、それぞれ1月と2月に開催することも考えているという。
雪不足になろうとも人工雪や人工氷で対応すればいいのではないかと考えたくなるが、大量の人工雪や人工氷を作るには、当然のことながら大量の水と大量の電力が必要となる。カーボンニュートラルなオリンピックを目指すIOCの立場からは、やはり、憂慮すべき事態である。ちなみに、世界経済フォーラムの今年2月20日の記事によれば、2022年開催の北京大会では、人工雪の使用が拡大し、人工雪の製造に2億2200万リットルの水を使用したのだそうだ(参考URL-3)。
このような中で、アスリートたちも環境保護に向けた運動を行っていることを紹介した、産経新聞宝田将志記者による「地球温暖化で減少する冬季五輪候補地 環境保護へ渡部暁斗らアスリートもが立ち上がる」の見出しを持つ記事があった(参考URL-3)。
ノルディックスキー複合の渡部選手は、カーボンニュートラルで競技活動を行うために募集したエコパートナーからの支援で、渡部選手の家庭が1年間に放出する二酸化炭素量に見合う炭素排出量(カーボンクレジット)を購入しているのだそうだ。さらに記事では、スキージャンプの中村直幹選手が環境問題に取り組む法人を設立したこと、高橋沙羅選手が植樹を続けていることなども紹介されている。
オリンピックでは選手のパフォーマンスやメダルの獲得などに目が奪われがちになる。しかし、オリンピック開催の裏には、例えば降雪マシーンを大量動員して雪の確保が行われたことなど、その背景を知っておくことも重要なことではないだろうか。
【参考文献】
【参考URL】