コラム

海洋瑣談(No.29、2026年10月15日)

風速の単位について

 月曜日午後10時からのNHKテレビ「映像の世紀 バタフライエフェクト」はとても見ごたえのある番組で、毎週楽しみにしている。先月(2026年9月)7日のこの番組は、「災害報道 挫折と葛藤の百年」と題するもので、災害報道の在り方を問うものであった。台風などの迫りくる危険な現象をどのように報道すべきなのか、災害が起こった後に何をどう伝えるべきかなど、副題にあるように何度もの挫折と新たな試みを繰り返したこの百年を振り返ったものであった。

 番組の中で、5000人以上もの死者・行方不明者を出し、後に伊勢湾台風と名付けられた台風15号の報道が紹介された。発達した台風15号は、1959(昭和34)年9月26日(土)の夕方から夜にかけて、三重県、愛知県、岐阜県を縦断し、多くの犠牲者を出した。名古屋地方気象台は当日午前、暴風雨、波浪、高潮の警報を出したものの、午後から休みとなる土曜日であったため、警報は役所止まりで一般の人々には届かなかったという。

さて、話はここで一気に変わる。この番組の中で、台風15号は強力な台風であることを伝える当時のラジオアナウンサーの音声が流れていた。「名古屋市では、瞬間最大風速47.8メートルを記録」と(番組冒頭から21分50秒が経ったあたり)。「えー、風速○○メートルは、既に1959年ごろには一般に使われていたのか」と驚いた。

 現在、新聞やテレビ、ラジオの報道では、風速はすべて「○○メートル」と表現される。しかし、「これはたまらん、何とかしてくれ」という人も多いのである。実際、もう何年も前のことだが、東北大学時代、隣の研究室の地震学講座教授の大竹政和先生(1939-2025、地震予知連絡会・会長や日本地震学会・会長を務められた)から、「花輪さん、風速を何とかしてください」と面と向かって真顔で訴えられたことを思い出す。

風速とは、「単位時間当たりに空気が走る距離」のことであり、気象庁は、1886(明治19)年に風速を秒速(m/s)で表記するよう定めた(参考URL-1)。すなわち、単位時間を秒で、距離をメートルで表せば「メートル毎秒」、記号で書けば、「m/s」となる。もちろん、「秒速○○メートル」でもよい。ところが、上述のように、現在の報道では、風速から「時間」の単位が落ちてしまい、すべて風速○○メートルになってしまうのである。

 一方で、台風の移動では、「台風は『時速』〇〇キロメートルで北上するでしょう」などと表現している。こちらは、全く正しい表現である。どうして台風の移動速度にはきちんとできて、風速にはできないのだろうか。

 私の連れ合いは、風速と言えば「秒速○○メートル(m/s)」に決まっているので、そんなに目くじらを立てなくともいいのでは、と大いに寛容である。しかし、世界に目を移せば、風速が秒速の国も多いが、そうでない国もたくさん存在する。

 米国は「時速○○マイル(mph)」が一般的だし、ヨーロッパでは「時速○○キロメートル(km/h)」の国もある。飛行機や船では「○○ノット(knot)」を使うことも多い。ところで、ノットは注意が必要で、それ自身に「時間」の概念が含まれている。ノットとは、「1時間に進む距離をマイル(海里)で表したもの」となる。したがって、「時速○○ノット」なる表現は誤りとなる。

閑話休題。風速○○メートルなる表現は直りそうにないのだが、最低限、記載する単位は風速○○「メートル/秒」、または、「m/s」とすべきでしょう。天気予報などでは、波の高さも同時に伝えることがある。このときは、風速〇○メートル、波の高さ○○メートルと、同じ画面に出てきてしまう。せめて、風速には「メートル/秒」または「m/s」と正しい単位を付けておきませんか。

 小学生に「風速を求めなさい」という問題が出たとしましょう。答えとして、「○○メートル」と書いたら、これはどうですかね。たとえ数値が正しいとしても、これでは完璧な回答とは言えないのではないでしょうか。

 もう止めましょう。今回は、「風速○○メートル」は少なくとも1959年には報道でアナウンサーが使っていたことがわかった、という話でした。

ページトップへ