海の杜(No.19、2025年12月1日)
今回はAIMEC-GCsのGC-2「気候-海洋-生態系の連動性と時空間変動の解明」を取り上げます。ウェブサイトニュース「WPI-AIMEC『グランドチャレンジ』を策定」(参考URL-1)と、「EarthArXiv」掲載の「Grand Challenges Executive Summary」(参考URL-2)を利用して紹介します。まず、GC-2の概略です(参考URL-1)。
「物理的プロセスと生態学的プロセスの多様な相互作用は、沿岸域や外洋の生態系の安定性と動態に影響を及ぼします。(この多様な相互作用は)比較的安定で持続的な状態から別の状態へ移行する『レジームシフト』の軌道を左右する重要な要因です。WPI-AIMECでは、広範かつ詳細な観測データを用いた新たな統合的アプローチやモデルを開発し、生態系レジームシフトを信頼性高く早期に検出することを目指します。」
気候は多くの要素の絡み合い(相互作用)で形成されており、常に揺らいでいます。ある平均状態の周りを揺らぐ状態を「『準』定常状態」といいますが、ある準定常状態から別の準定常状態へと、数十年おきに気候が急激に遷移することがあります。この遷移が「レジームシフト」です(「海の杜」No.8参照)。
いっぽう、海洋生態系は「食物連鎖」という言葉が象徴しているように、ある変化が起こるとその影響が次々に波及することになります。すなわち、環境の変化に対し生態系は1つの応答で終わることなく、何段階もの応答を経て初めて別の状態に落ち着いていくのです。生態系は気候と同じく常に揺らいでいますが、気候にレジームシフトが起こると、複雑な過程を経て生態系にもレジームシフトが起こることになります。
このレジームシフトがどのような応答の連鎖で起こるのかが重要で、この連鎖のことを上記の説明では数学的表現ですが、「軌道」と表現しています。AIMECはGC-2 として、海洋環境と生態系への様々な手段による観測と監視を強化し、地球システムモデルを高度化の上、気候と生態系のレジームシフトの発生とその軌道を、早期に予測することを目指します。
GC-2には、2つの特定課題(Specific challenges)、7つの主要問題(Key questions)、4つの取組方法(Approaches)が設定されました(参考URL-2)。2つの特定課題とは、1)沿岸・外洋生態系の物理・生態学的プロセスと、安定性(強靭性や脆弱性、あるいは転換点)の間の関係解明、2)物理・生態システムの時間・空間変動のレジームシフト軌道への影響の解明です。
GC-2は如何に挑戦的な課題であるのか、想像していただけるのではないでしょうか。
【参考URL】
1.AIMECウェブサイトニュース「WPI-AIMEC『グランドチャレンジ』を策定」(2025年8月22日掲載)
https://wpi-aimec.jp/news/2624/
2.「EarthArXiv」掲載「Grand Challenges Executive Summary」(2025年8月21日掲載)
https://eartharxiv.org/repository/view/9810/2